【高鍋町とIoT】カンファレンスに県内外から140人超。協業や全国展開へ期待高まる<後編>

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IT企業のエイムネクスト(本社=東京)が宮崎県高鍋町で繰り広げている最新のIoT技術を駆使した地域活性化の取り組み。6月28日に公開した<前編>(※記事リンク)では、同社が新たに構築した「地域IoTプラットフォーム」の概要や実証実験の現場を紹介したが、後編ではその成果報告のため6月4日に開催した「高鍋町IoTカンファレンス」の模様を紹介する。

黒木町長、「世界へ発信できるチャンス」と強調

6月4日、午後1時前。小雨が降り注ぐ中、「高鍋町IoTカンファレンス」の舞台となった高鍋町美術館に続々と人が集まってきた。普段は人影がまばらな会場内の大きなホールは、県内外から駆けつけたIT企業や自治体関係者ら140人超で満杯に。開始前から異様な熱気に包まれていた。

「官民が一体となって取り組むこの試みが、地域の課題解決や経済の活性化につながる最先端の事例になることを期待しています」。黒木町長が声高らかに、カンファレンスの口火を切った。

今回のIoTプラットフォームに対する行政の期待は大きい。黒木町長は冒頭の挨拶で、高鍋町が人口減少や少子高齢化、東京一極集中などに直面していることに触れた。ただ、エイムネクストとの協定締結やその後の動きには手応えを感じているようで、「少子高齢化や人口流出は全国のどこの市町村も同じ。どういう切り口や方向性で活性化していくか。今回は、町内全域の情報を収集できるという全国に例のないかたちでIoTのプラットフォームを構築することができました。これは地域にとって大きな意味をもつ新しい試みです。IoTの先端都市として、高鍋町の存在を世界へ発信できるチャンスになります」と強調。そのうえで、この取り組みが「医療や教育、農業、介護、防災、働き方、観光など、様々な分野の問題を解決し、それぞれの分野に大きな効果をもたらすものになると考えています」と力説してみせた。

開会の挨拶で力を込める黒木町長

清社長、「全国に広げていきたい」と横展開に意欲

黒木町長の後を受けて登壇したのは、エイムネクストの清社長だ。清社長はまず、今回のIoTプラットフォームについて「人口減少や高齢化が進む中でも市民のみなさんが安心・安全、便利な生活を送れるように。また、企業がより生産的な事業ができるように。そのためのインフラをITを活用してつくれないか。そう思って始めました」と経緯を紹介。そこで目指したのが、町内のどこからでもデータを収集できるIoTプラットフォームの構築だ。さらに、それを全国各地に横展開する構想を打ち立てた。

地域IoTプラットフォームについて説明する清社長

IoTの利用事例は増えているが、清社長はその課題の1つに「インフラの乱立」を挙げる。「例えば農業のIoTを1つとっても、同じようなサービスがたくさんあり、全国で重複しています。共用する発想になかなかならないんです」という。そこで、「共有化できる部分は共有し、他の地域のシステム会社と協業できるようにしたかった。共通のプラットフォームをつくれば、コストをかけずに全国に広げられます」と今回の目的を説明した。

開発への投資や運用コストが高ければ、当然農家などのユーザーが利用する際の費用が高くつき、気軽に導入しづらくなる。そのため、今回のプラットフォーム構築にあたっては扱いやすい技術をベースに、過度な品質を求めず手軽さを優先することなどを方針に掲げ、コストを大幅に低減させることに成功したという。ほかにも、必要なハードウェアとソフトウェアの開発費など、必要な投資はあえて行政の補助金に頼らず、すべて自社で賄った。そのため、迅速な意思決定が可能になったことも短期間でプラットフォームを構築するうえで大事なポイントだったと指摘した。

IoTの実証実験を始めてから1年が過ぎたが、清社長は「最初は『IoTって何なんだろう?』という雰囲気もあったが、1つずつ事例を積み重ねていくうちに地域のみなさんに理解していただけるようになり、最近は『こんなこともできるんじゃない?』『今度はこういうことに挑戦したい』といろんなニーズが飛び込んでくるようになっています」と、周囲の変化に手応えを強めている。

そして最後に、他の地域のシステム会社や自治体関係者に向けて「私たちは横展開していきたい」と投げかけた。具体的には、高鍋町内で事業を一緒に進める協業パートナーや、他の地域でプラットフォームの展開を希望する企業などを想定しており、「各地域の中小システム会社や行政のみなさんと手を組みたい。プラットフォームとノウハウを貸与し、必要に応じて足りないスキルや知識はトレーニングします」と全面的なサポートを約束した。

清社長はシステム開発会社や自治体に協力を呼びかけた。

求められるのは「デジタル変法」。崎村さんが指摘

この日、聴衆は豪華ゲストによる講演にも熱心に耳を傾けた。その1人が、プライバシー関連技術の国際標準化における第一人者である崎村夏彦さんだ。

研究や講演活動で国内外を飛び回る崎村さんだが、偶然が重なり高鍋町に降り立つことになった。実はエイムネクストがオフィスとして移築・改装した古民家は、もともと宮崎市にあった崎村さんの父親の実家だそう。その縁で清社長と知り合い、今回のカンファレンス登壇につながった。

そんな崎村さんによる講演のテーマは、「未来を拓く公共IoT基盤」。その中で崎村さんが強調したことの1つが、「デジタル変法」の必要性だった。これは、デジタルを基本として組織や業務、あるいは社会のあり方を再設計するという意味合いだ。

「デジタル変法」の必要性を説き、高鍋町の取り組みに期待を示す崎村さん。

“失われた20年”と言われるように、「日本は過去の成功体験に囚われて、新しい技術的現実に合わせたやり方に変えてこなかったのです」と、デジタル化を巡る欧米各国の事例を紹介しながら日本の遅れを厳しく指摘。ただ、「私は希望をもっている」とし、今回のIoTプラットフォームの取り組みについて、こう話した。「高鍋町では最先端の技術にアクセスできます。今まで取れなかったデータが集められるようになり、それを分析し、自動化・効率化ができるようになりました。IT業界のここ数十年の動きで大きかったのは、iPhoneの誕生だと言われます。ただ私は、それ以上にApp Storeが大きかったと思います。App Storeというプラットフォームが生まれたことで、様々なアプリがつくられるようになり、私たちの生活が便利に変わりました。この地域IoTプラットフォームにも、同じことが言えます。私たちが想像していることをはるかに超えることが、起きる可能性を秘めているんです」

さらにカンファレンスでは、エイムネクスト高鍋事業所でのVRトレーニングサービスの協業企業である、サードウェーブ(本社=東京)のサービスも紹介された。同社は、パソコン専門店「ドスパラ」の運営やゲーミングPC「GALLERIA」の企画・製造などを行っている。この日は「自治体、民間企業で活用できる映像分析技術」をテーマに、イスラエル発の映像分析ソフトウェア「BriefCam(ブリーフキャム)」の説明があった。

同社の鈴⽊由希子さんによると、監視カメラで撮影した映像について、「ブリーフキャム」を使って「人」「車」「男性」「犬」といった分類や、「半袖」「帽子」などの属性、さらに色やサイズ、速度などの条件を入力することで対象物を瞬時に絞り込むことができるという。世界各国の警察機関などで多くの導入実績をもつが、鈴木さんは「例えば曜日や時間ごとの客の属性や来場者数などを分析し、それを数値化してグラフ化するなど、マーケティングにも利用できます」とPRした。

サードウェーブの鈴木由希子さん。映像分析の「ブリーフキャム」を紹介した。

こうした目白押しの内容で、約2時間半に及んだカンファレンスは幕を閉じた。終了後、一部の参加者はエイムネクストの事業所やIoTの実証実験の現場を視察し、町の雰囲気やプラットフォームサービスへの理解を深めた。

協業の問い合わせ数多く。町も関連施策を強化

エイムネクストの担当者によると、カンファレンスは好評で、協業を含め今後の展開に期待が膨らんでいるようだ。

カンファレンスの会場内では、エイムネクストの社員が来場者にサービス内容を熱心に説明。

「トレーニングへの申し込みや、高鍋町への進出を考えたうえでの協業の問い合わせ、またカンファレンスの継続的な開催などを望む声を数多くいただいています。協業の希望については、今回のカンファレンスには参加していない企業や行政からも問い合わせが多数届いています」(担当者)という。

一方、高鍋町もより積極姿勢を強めている。地域政策課の担当者は、「役場として実証実験やプラットフォームの構築に前向きな企業に対して、どんなサポートができるのか。私たちとしても、全力でサポートしていきたいですね」と話す。

実際、町はIT企業や技術者をはじめ、このIoTプラットフォームを担うプレイヤーの受け入れ態勢を強化している。企業立地補助金などのほかに、主に移住検討者を対象に最大1カ月無料で提供する「お試し滞在住宅」や、1年間を上限に無料で使用できる「お試しオフィス」などの制度を導入している。また、新たに町独自の求人サイト「みちはた」を今年度内に開設する計画だ。若年層や移住者を想定した人材確保の新たな施策で、現在はサイトの管理・運営を行う地域おこし協力隊員を募集している。

黒木町長は、「今回のカンファレンスをきっかけに、IoTに関連する多くの企業やフリーランスの方々に来ていただきたい。そうした企業誘致などに関連する分野で、町としても後押しする施策をどんどん充実させていきます」と力を込める。

カンファレンス当日は地元テレビ局の取材もあり、関心の高さをうかがわせた。

一方、清社長も「今の時代は東京にいなくても、グローバルに世界とつながっていくことができます。高鍋から世界へ。私たちが目指す最終的なゴールは、高鍋を世界中の人に知ってもらうことです」と貪欲に将来像を描く。「今回のIoTとは別に、いろんなことを仕込んでいる」とも話し、高鍋発の新たな事業展開に意欲を燃やしている。

静かに、しかし着実にステップを刻み出した高鍋町とIoTの取り組み。この町が5年、10年後、どんな姿に変貌を遂げているか。“IT×地域”の先進的な実践例の1つとして、今後も目が離せそうにない。

▼高鍋町の企業・移住者向け制度の詳細
・お試し滞在住宅
http://www.town.takanabe.lg.jp/soshiki/chiikiseisaku/3/733.html

・お試しオフィス
http://www.town.takanabe.lg.jp/jigyosha/kigyoyuchi/1508.html

・地域おこし協力隊員の募集
http://www.town.takanabe.lg.jp/event/2131.html

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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