日本の食文化をテクノロジーで未来へつなぐ。編集者やエンジニアら異色キャリアの4人が立ち上がった

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食文化をテクノロジーの力で未来へつなぐーー。石川県小松市で、こんなコンセプトを掲げた食のオープンスペース「EATLAB(イートラボ)」が、クラウドファンディングで施設改修などの資金調達に動いている。プロジェクト開始から10日あまりで100万円を達成。現在は3月2日のオープニングパーティーの開催に向けて、第2弾のゴールに向かってひた走っている。プロジェクトを仕掛けているのは、東京からUIターンした男女3人と地元在住のサポートメンバー。編集者、データサイエンティスト、エンジニア、デザイナー。異色の4人がタッグを組んだ理由、そして目指すものは何なのか。

ビールメーカー、食のメディア運営・編集の10年を経て…

日本海に面した石川県南部に位置する小松市。建設機械メーカー・コマツの企業城下町として知られ、人口10万人を超える産業都市だ。JR北陸本線・小松駅から徒歩約10分。周囲に商業施設などが立ち並ぶ中心街の一角に、EATLABはある。現在、3月2日のオープンに向けて急ピッチでリノベーションを行っている。

200㎡の広大な室内で一際目を引くのが、大きなオープンキッチンだ。ただ、単なる飲食店ではない。キッチンのほかに、シェアオフィスやレンタルスペース、ギャラリーなども設置する。食の仕事に携わる関係者や地域住民などが集まり、“つながる場”にする計画だ。

室内に入り、まず目に飛び込んでくるのがこのオープンキッチンだ。

EATLABを仕掛けるメンバーの1人が、瀬尾裕樹子さんだ。川崎市(神奈川県)出身の瀬尾さんは、食と関わりの深い人生を歩んできた。短大で栄養学を学び、その後「趣味以上の趣味」というスノーボード好きが高じて信州大学(長野県)に進学。生物学を専攻し、冬は雪山にこもった。卒業後は、嬬恋高原ビールを製造・販売するクラフトビールメーカー(群馬県)に就職した。

食の多様性や奥深さを知ってほしいーー。そう意気込んで入社したものの、厳しい現実が立ちはだかる。

「とりあえず、ビールで」。飲食店で乾杯の一杯を注文する際、よく耳にする言葉だ。でも、それが瀬尾さんには疑問だった。「ビールと一口に言っても、いろいろあるのに」。今でこそクラフトビールは世間の注目を集めているが、当時はそうではなかった。そんな状況が歯がゆかった。

そこで、ビールの多様な世界観を伝えようと、会社員の傍ら、WEBメディア「ビール女子」を立ち上げた。その後会社を辞め、実家のある川崎に戻ってメディア運営に専念。ファンが徐々に増える中、あるベンチャー企業に買われることになり、瀬尾さんはその後約3年間、編集長として働いた。ただ、メディアの規模が大きくなるにつれ、自分のやりたいことやできることと役割との間にギャップが生じ、会社を離れることを決意。以降は、フリーランスとして食のメディアの立ち上げや雑誌の編集・ライティングなどで生計を立てる生活を送った。

そうして食の仕事に携わる約10年。次の一手を模索する中で打ち出したのが、今回のプロジェクトだ。2018年6月、夫でフリーランスのデータサイエンティストである新道雄大さん、同じくフリーでアプリなどのエンジニアをしている加藤卓也さんの3人で、小松市に株式会社EATLABを設立。地元で活躍するデザイナーの鵜川瞬也さんをサポートメンバーに加え、4人でEATLABのオープンに向けて準備を進めている。

(左から)瀬尾さん、新道さん、鵜川さん、加藤さん。

「このままでは、豊かな食文化が廃れてしまう…」

「夫の実家のある小松市で、何かおもしろいことができないか」。この一言に、3人の思いは自然と重なり、EATLABの構想は動き出した。瀬尾さん、新道さん、加藤さんの職種はそれぞれ違ったが、3人に共通していたのが「食」への強いこだわりだった。日々、食事会や全国各地の美味しい食材を味わう旅に出かける間柄だったという。

瀬尾さんは食の仕事に携わる中で、長い歴史をかけて育まれてきた日本の多様な食文化にどんどん魅了されていったという。しかし一方で、危機感も抱いていた。

ユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、世界的にも注目を集めている和食。豊かな食文化を下支えしているのは、地方の中小・零細企業ーー。瀬尾さんには、そんな思いがある。

「日本の伝統的な食文化をコアなところで支えているのは、地方にある社員が10人前後の中小・零細の食品メーカーです。でも、高齢化や後継者不足に悩み、経営やマーケティングに意識を向ける余裕がない会社が少なくありません。伝統食品の作り手も食べ手も少なくなっており、このままでは各地域で守られてきた豊かな食文化が廃れてしまう…」

小松市にも、まさにそうした課題が横たわっているように見えた。海と山に囲まれた自然豊かな場所。ここでも、地域特有の食文化が受け継がれてきた。日本酒や「こんか漬け」と呼ばれる魚の糠漬、ナマコの内臓を使った珍味「このわたやくちこ」など、伝統的な食文化が食卓を彩ってきた。

ただ、瀬尾さんが小松市に移住して目の当たりにしたのが、そうした食文化を支えるメーカー各社の疲弊ぶりだった。高齢化や後継者不足に加え、受発注や流通の仕組みなど非効率な商慣習も経営体力を徐々に奪っているように見えた。

そんな状況に風穴を空け、日本の食文化を未来へつなげたいーー。こんな思いを具現化したのが、EATLABだ。瀬尾さんは「それに貢献できるように、自分たちのスキルを活かしたい」と力を込める。

作り手と食べ手が垣根を越え、つながるコミュニティに

キッチンの他に、シェアオフィスやフリースペース、ギャラリーも設置。

食とテクノロジーの融合。これが、EATLABのコンセプトだ。「編集やディレクションをしてきた私の経験を生かして食のコンテンツをつくったり、新道と加藤のデータ分析やアプリ開発のスキルを生かして、(食品メーカーなどの)業務を効率化できるようなサービスを開発したりすることを考えている」という。

まず手始めに考えているのが、食をテーマにしたワークショップやイベントの開催だ。「現代の食生活では、生産者やメーカーと消費者の距離が離れてしまっている。食品メーカー関係者や生産者、それに地域住民らが、料理を一緒につくって一緒に食べたりすることで、お互いの顔が見えるような関係を築けたらいい。作り手と食べ手が垣根を越えて、つながるようなコミュニティに育てたい」との思いがある。

この場で、食をテーマに地域内外の人が集まり、交流する姿を描いている。

デジタルライブラリーの構想もある。地域に根付く伝統食品がどんな材料で、どのようにつくられ、どう食べられてきたのか。そうした情報を蓄積し、後世に伝えていくための手段としてテクノロジーの力を生かしたいと考えているのだ。

これには、海外への発信も見据える。小松市は日本海に面し、日本有数の国際カーゴ便の発着地とされる。その地の利を生かし、海外から視察者や観光客も呼び込もうというのだ。海外への情報発信では他にも、例えば地元の食品メーカーの英語版ホームページの作成も考えている。和食が世界的に注目を浴びる一方で、地方の中小企業のホームページに載っている情報にはそもそも英訳がないケースが多いという。「どんな食材があるのか、どんな食べ方があるのか。ゆくゆくは、そうした情報を英語などで残せるようにしたい」という。

クラウドファンディングに挑戦中。最終日は1月31日

そんなEATLABは、3月2日のオープニングパーティーに向けて第2弾のクラウドファンディングに挑戦中だ。オープニングパーティーでは、石川県を中心に北陸の食文化の担い手である酒蔵や伝統食品メーカー、また伝統工芸の九谷焼を手がける工房などを招き、「私たちが考えるこれからの食文化を体験できるフードカルチャーマーケット」を実施したいという。そのための予算を今、募集しているのだ。

「食が大好きで、長く仕事としても関わってきたが、今回のプロジェクトはその集大成のような感覚。これから始まる長い道のりの第一歩が、このクラウドファンディングを成功させること。ここを通じて食を中心に多様な人がつながり、北陸を中心とする日本のユニークな食文化を未来につないでいく実践の場にしたい」

▼クラウドファンディングは1月31日まで実施中!
「食文化の知をシェアするオープンスペースを石川県小松に作りたい」
https://readyfor.jp/projects/eatlab

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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