高専の同級生ら社員の3割が新潟出身。フラーが地元進出、母校とIT人材育成も

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国内最大規模のアプリ分析プラットフォーム「App Ape」を展開するフラー(本社=千葉県柏市)が、今年1月に新潟市に拠点を開設し、地元の自治体や企業、学校などと連携しながら新たな事業・サービスを立て続けに打ち出している。新潟は代表を務める渋谷修太さんの生まれ故郷で、同社の社員は約3割が新潟出身だ。最近では地元の高専と連携協定を締結し、若い世代のIT人材の育成や将来的な雇用創出にも乗り出している。

長岡高専→筑波大→グリーを経て創業

「日本三大花火」で有名な新潟県長岡市。今年8月に開催された花火大会も、県内外から多くの見物客が押し寄せた。開催期間中は、来場者がプログラム内容や交通情報などをスマホアプリから眺める様子も目立った。このアプリを、主催する長岡花火財団と共同開発したのがフラーだ。2日間の利用者は3万人を超え、App StoreとGoogle Playの両ストアでカテゴリー別ランキング1位を獲得。大きな反響を呼んだ。

長岡花火大会の公式アプリを共同開発。2日間の開催期間中、利用者は3万人を突破した。

フラーは、2011年に設立されたITベンチャー企業だ。主力事業はアプリのデータ分析を行うサービス「App Ape」で、導入社数は3000社を超える。アプリ開発も手がけており、KDDIなど大手企業との共同開発の実績もある。

創業者で代表取締役CEOの渋谷さんは、1988年新潟市生まれ、長岡工業高等専門学校(以下、長岡高専)を卒業後に筑波大学に進学。卒業後に入社したゲーム会社のグリーを退職し、フラーを創業した。ユニークなのは、創業メンバーを含め現在40人を超える社員のうち、約3割を新潟出身者が占めていることだ。さらに、渋谷さんの同級生をはじめ長岡高専の卒業生が多いのも特徴的といえる。

こうした採用方針からも地元への愛着ぶりが伝わるが、渋谷さん自身、やはり地元への恩返しや貢献には関心があり、以前から新潟への進出を模索していたという。そうした中、今年1月、IT関連企業の誘致に動く新潟市の補助と、地元のベンチャーキャピタルからの資金提供を受け、JR新潟駅前のビルにオフィスを構えることにしたのだ。

オフィスはJR新潟駅前のビルにあり、エンジニアなど5人の社員が常駐している。

新潟代表は北九州からUターン、「仕事の依頼は予想以上」

現在、新潟オフィスでは県内の自治体や企業などと組んで、アプリを開発するなどITの活用支援を行っている。常駐社員は5人。責任者を務めるのが、坂詰将也さんだ。坂詰さんは代表の渋谷さんと長岡高専時代の同級生。長く北九州市でエンジニアとして働いていたが、昨年6月にUターンし、長岡市内の企業に転職。しかし、わずか半年も経たないうちに渋谷さんからフラーへの入社を依頼された。現在は事業全体のマネジメントや営業などを担当している。

新潟拠点代表の坂詰さん。代表の渋谷さんとは長岡高専時代の同級生だ。

このほかに、2人のエンジニアと広報、営業補助のスタッフがいる。広報などを担当する契約社員の女性は、地元のプロバスケットボールチーム「新潟アルビレックスBBラビッツ」に所属する現役選手だ。フラーが同チームの公式スポンサーであることから実現した。同チームとはファン向けのアプリも共同開発している。

地元との連携は、これ以外にも多岐にわたる。地元の有力紙・新潟日報社の女性向けニュースサイトのアプリ開発も支援。また、今年8月には代表の渋谷さんをはじめ多くの社員にとって母校である長岡高専と連携協定を締結した。将来の起業家や優秀なIT人材を輩出するため、両者で協力して様々な取り組みを仕掛ける。早速、10月には渋谷さんが学生を対象に講演を行い、200人を超える学生が先輩の起業ストーリーや学生時代の過ごし方などに聞き入ったという。さらに、11月初めには、新潟市と連携して中学生・高校生向けのプログラミング教室も開催。各年代で、ITの魅力に触れてもらい優秀な人材を育てる活動を実施している。

今年8月、長岡高専と連携協定を締結。今後、協力して地元から優秀なIT人材を輩出していきたい考えだ。

坂詰さんは、拠点開設からまだ1年弱の時点でのこうした周囲の反応や事業の広がりは、「予想以上です」と話す。

「新潟に進出する際は、市場調査は行っていたものの、事業が成功する万全な確証があったわけではありません。ビジネスとしての魅力や可能性は未知数な部分がありました。それ以上に、代表の渋谷を中心に地元貢献に対する”情熱先行”で踏み出しました。ただ、代表や社員の多くが地元出身者だったこともあり、プロモーションに協力してくれる自治体や、応援してくれる地元企業の経営者が予想以上に多いことを実感しています。アプリの共同開発などを行うことで知名度が上がり、それが実績となってさらに声をかけていただけるという相乗効果と好循環がつくれてますね。当初の想定よりも、仕事の依頼は多いです」

新潟拠点が手がけるアプリ開発などの事業は、今後もさらに広がりを見せそうだ。同時に、将来的には長岡高専との提携をはじめ「地元の学校からインターンや新卒採用を考えている」(坂詰さん)といい、地元で積極的な人材採用を行う構想も掲げている。

大手IT企業出身のエンジニア、念願だったUターン叶える

新潟の拠点でエンジニアとして働く畠山創太さんに、現地での仕事や暮らしぶりを尋ねた。畠山さんは1989年生まれ、新潟市出身。長岡高専、都内の大学・大学院へと進学し、大手IT企業に就職。その後、2015年にフラーに入社した。

もともとUターンを熱望していた畠山さん。”地元ライフ”を満喫しているという。

ー長岡高専時代とその後の進路は
畠山 僕よりも学年が1つ上の世代に、代表の渋谷がいました。一時期、学生寮では同じ部屋で生活してましたよ(笑)
その後、都内の大学と大学院に進学しました。就活のときはUターンを希望していて、都内のUターンイベントにも行きましたね。ただ、あまり魅力的な仕事がなかったんです。そこで都内での就職を優先して、大手IT企業に入社しました。

ーそれからフラーに入社した
畠山 新卒で入社して約10カ月。ある日、渋谷から「うちのオフィスに遊びに来ない?」と連絡が来たんです。そしたらオフィスの環境がとても印象的で…芝生のマットの上でコーディングしていたり、漫画本が大量に並べられていたり、大学院の研究室みたいで気に入りました。

会社や仕事に不満はありませんでしたが、「楽しそうだな」と思ってその場で入社を決めました。僕にとって仕事のプライオリティは、「ダントツに楽しいこと」なんです。

ーその後、新潟拠点のメンバーになった。Uターン後の生活は
畠山 家族や地元の仲間と一緒に過ごせる時間が増えたことが、何よりも嬉しいですね。中学卒業後に高専での寮生活が始まったので、実家生活は約10年ぶりです。毎晩、母親の手料理を食べられることが幸せです。

通勤もオフィスがある新潟駅まで電車で2駅・約10分です。毎朝9時過ぎの電車に乗って、コーヒーを買ってから9時半前にはオフィスに着けます。ずっと「新潟に帰りたい」と言い続けてましたから、渋谷には感謝しています。

ー一方で不便に感じるようなことは
畠山 エンジニアやプログラマーの勉強会に参加しづらくなったことですね。都内にいたときは、平日でも仕事を終えてから気軽に足を運んでましたから。そういう中で、技術者として仕事やスキルアップへのモチベーションをどう維持していくか。そこは課題ですね。

ーずばり、新潟の魅力は
畠山 とにかく「食」が最高です。お米、水、日本酒など…。あと、実は新潟は”ラーメン大国”としても有名なんですよ。いろんな種類のラーメンが激戦しています。

ー新潟で実現したいことは
畠山 地元の若い人たちにとって、魅力的な職場を提供できたら嬉しいですね。僕が就活の際に味わった「新潟に帰りたいけど、魅力的な会社がない」という経験。せっかく地元で働きたいのに、その可能性が制限されてしまうのはもったいないし、僕の下の世代にそういう思いをさせたくないんですよね。

ー読者にメッセージを
畠山 今は随分とリモートワークも根付いてきています。特に僕たちのようなエンジニアは場所を問わず、どこにいても仕事をしやすい職種です。もっと気楽にUターンしてみてもいいのではないでしょうか。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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