「9割超がリモートワーク」の会社はコロナ危機をどう乗り越えたのか。ポストコロナの働き方を考える

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新型コロナウイルスの感染拡大による緊急対応として、企業の間でリモートワークがかつてない広がりを見せている。ただ、不慣れな企業にとってはデータ管理や社員間、客先とのコミュニケーションで壁にぶち当たるケースも。日頃からリモートワークを導入していた企業は、このコロナ危機にどう対応したのか。社員の9割以上がリモートワークのポップインサイト(横浜市)の事例から、リモートワークの課題と今後を探ってみた。

日頃からリモートワーク。コロナの影響は「ほぼない」

テレワーク(リモートワーク)の実施率は、全国平均で27.9%ーー。パーソル総合研究所が緊急事態宣言(当時の対象は7都府県)発令後のテレワークの実態について、4月10~12日に全国25,000人規模を対象に実施した調査結果だ。1カ月前に行った同様の調査では13.2%だったため、一気に2倍以上に上昇したかたちだ(調査の詳細はこちら)。地域によって差はあるものの、コロナ危機をきっかけに一気に広がりそうな気配を見せている。一方で、それでもまだ7割以上が出社を前提としたスタイルに終始しているという見方もできる。

「私たちのお客さんの中にも『ハンコがないと発注できない』といった会社があるように、日本全体で見ればまだ対面前提の仕事観が根強くありますよね」。こう話すのは、WebサイトやスマホアプリのUX(顧客体験)改善サービスを手掛けるポップインサイトの代表取締役CEO・久川竜馬さんだ。

4月1日付で取締役COOから代表取締役CEOに就任した久川竜馬さん。

ポップインサイトは、以前から社員の9割以上が在宅を中心にリモートワークをしている。社員は全国各地に散らばっており、育児や介護、あるいは夫の転勤など、家庭の事情でフルタイムの出社が難しい女性が多いのも特徴だ。昨秋には北海道紋別市にサテライトオフィスを開設し、役員合宿や社員のワーケーションなどに活用している。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大対策としては、まず2月19日に原則在宅勤務を徹底すること、また打ち合わせなどもWeb会議を推進することなどをメールやホームページで表明し、改めてクライアントに周知した。今回の騒動を機に、リモートワークを取り入れた多くの企業で社員間や客先とのコミュニケーションが課題に挙げられる中、同社は「全くといっていいほど影響は受けていない」(久川さん)という。それもそのはず。同社にとってオンライン上のコミュニケーションは、むしろ日常そのものだからだ。

週8000円の「子どもサポート」。休校中の負担を軽減

ただ、原則在宅勤務などを決めた後も感染拡大の勢いは衰えないどころか、緊急事態宣言が出されるなど状況はさらに緊迫化。それに伴って、ポップインサイトとしても新たな対応に迫られた。

久川社長によると、特に大きかったのが小学校の休校や保育園の自粛だという。まだ小さな子どもを抱える社員が多いこともあり、「家で子どもの面倒を見ながら仕事をする必要があり、子持ち社員の稼働が大変になった」というのだ。

そこで打ち出したのが、「子どもサポート」という制度だ。子どもの勉強道具や学習教材、おもちゃ、あるいは飲食物の購入などに週8000円を上限に補助するというものだ。アンケートで社員全員に休校によってどんな影響が生じるかなどを聞き取り、負担軽減のために導入した一手だった。

普段から在宅勤務をしている広報担当の牧野千代さんは、「非常に助かっている」と感謝を口にする。「例えば、30分間仕事から抜けて子どもの面倒を見たりしていると、どうしても稼働率が落ちてしまうんです。そこから夕食の準備をするのも大変で…。『子どもサポート』では子どもが使うカードゲームを買ったり、夕食にピザのデリバリーを頼んだりしています。精神的にも楽になれました」

牧野さんのようにこの制度を利用する社員は多く、社内で使うチャットアプリ「slack(スラック)」には、購入した教材や食べ物を片手に笑顔で映る子どもたちの写真が次々とアップされている。

こんな風に子どもたちの姿が日々、投稿されている。利用者にとっては単に負担軽減だけでなく、仕事へのモチベーションアップにもつながっているようだ。

コロナ後、リモートワークは広がるか。鍵は“カルチャーと意識付け”

「“ポストコロナ”を見据えたときに、収束後に元の業務に戻すのではなく、会社の体制や価値観を転換するきっかけにできればいいと思いますね。そうすれば、生産性はより高まるでしょうし、働く人たちの生活も豊かになると考えています」。久川さんは今回のコロナ危機をきっかけに、企業文化のあり方をアップデートする必要性を説く。

リモートワークを推進するうえでは、まずは制度やシステム面の課題をクリアすること。そして、その次に来るのがコミュニケーションの問題だという。リモートワークでは「孤独感を感じる」「進捗確認が難しい」といった声をよく耳にする。そこをどう乗り越え、社員が心地よく働けて、かつ社員間の信頼関係を構築していけるかが鍵を握るというのだ。

そこで大事になるのが、「カルチャーや意識付け」だと久川さんは指摘する。「例えば私たちは、スラック上で社員1人ひとりが自分のチャンネルをつくって意識的に状況を発信するようにしたり、ビデオ会議ツール『zoom(ズーム)』で誰でも参加できる雑談用の部屋をつくったりしています。社員間で自然とコミュニケーションが活発になり、助け合う文化が生まれています」

「zoom」は社員全員の“共有空間”。困ったことがあれば尋ねたり、あるいは雑談したり。孤独感の解消にも役立っている。

また、マネジメントの面でも「あまり細かくプロセスを追わないようにしてますね」と久川さん。成果物のクオリティと納期。そこを担保できれば、プロセスは個々の担当者に任せる。オンラインか否かは関係なく、日頃からしっかり信頼関係を構築しておけば、そうしたマネジメントが十分可能だという。

コロナ以後、果たして企業のマインドは変化するのか。リモートワークは、一気に普及するのか。ポップインサイトの取り組みには、未来を考えるためのヒントが詰まっている。

久川社長は「これからWeb会議は増え、オンラインツールも広まっていくだろう」と指摘する。オンラインホワイトボードサービスの「miro(ミロ)」もその1つで、ポップインサイトも社内会議などでよく使っているという。

「どこにいても、みんなが活躍できる場所にしたい」

久川さんは、こうした緊急事態下の4月1日に代表に就任し、経営の舵取りを任されることになった。ここからは、Q&A形式で代表就任への思いなどを紹介する。

ーーこれまでの経歴を簡単に教えてください。

ずっとIT畑です。前々職のSHIFT(シフト)ではポップインサイトのようなユーザビリティテスト、前職のカカクコムでは北米向けサービスを担当してきました。

ーーポップインサイトにはどういう経緯で入社したのですか。

入社したのは、2年半前の2017年秋です。カカクコムを退社して、約半年かけて世界一周の新婚旅行から帰ってきたタイミングで、前社長の池田から「一緒にやらないか」と声をかけてもらいました。実は、池田とは大学の同期なんです。

当時ポップインサイトは、社員も増やして大きく成長していこうという時期でした。IT業界でのこれまでの経験を生かして、役に立てるいいタイミングだと思ったんです。

新婚旅行で訪れたペルーの世界遺産・マチュピチュ。アジアからヨーロッパ、アフリカ、南米、北米まで世界をぐるっと一周した。

ーー新社長として、どんな舵取りをされるのか。興味深いところです。

私は、池田とはタイプが違います。池田がガンガン引っ張っていくようなタイプなら、私はバランス型。もちろん大きな方針は立てますが、あくまで現場で進めてくれるのは社員1人ひとりです。社員が心地よく働き、力を発揮できるようにサポートすることが、何よりも大事な私の仕事だと思っています。

ーーリモートワークのニーズは、今後さらに高まっていきそうです。

社員は年間10人ほどのペースで増えています。最近では、滋賀県在住の20代女性。旦那さんの転勤で、続けたかったメーカーの営業職は辞めざるを得なかったそうです。「正社員として一人前の仕事がしたい」と入社してくれました。5月から加わってくれる社員は、3人の子どもを育てながらキャリアアップできる道を探して、在宅・リモートワークが可能なポップインサイトを選んでくれました。

家庭の事情などで、働きたくても思い通りに働けない人がいます。リモートワークだからこそ働ける人、地方でも意欲やポテンシャルのある人。どこにいても、どんな事情があっても、みんなが活躍できるような場所にしたいですね。

ーーサテライトオフィスを開設した北海道紋別市の動きはどうでしょう。

昨年12月に、主に東南アジアの技能実習生向けに紋別市を紹介するパンフレットを制作しました。行政や地元の事業者などとの連携は、今後どんどん加速させていきたいですね。私たちは、ユーザーの体験をデザインする会社です。Webやアプリなどに限らず、例えば店舗の導線をどうデザインするかなども含めて、いろんなことに挑戦していきたいと思っています。

技能実習生向けのパンフレットは、中国語とベトナム語、タイ語の3つのバージョンを制作した。

ーー久川さん自身の“理想の働き方”もお聞きしてみたいです。

世界を旅しながら働いてみたいですね。今一番行きたいのは、南極です!

▼久川代表の詳しいプロフィール
https://popinsight.jp/release/release.php?id=85

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(写真はすべてポップインサイト提供)

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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