コンビニのない島を「ITアイランド」に!大分県姫島村が描く未来とは

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大分県唯一の村として知られる姫島村。人口約1900人、コンビニもない小さな島に今年、東京のIT企業2社が開発拠点を設けることを決めた。県によると、1979年に統計を取り始めて以降、村への企業立地は初めてという。進出する2社は今、12月からの事業開始に向けて急ピッチで準備を進めている。東京からかけ離れた陸の孤島で今、何が起きているのだろうか。進出を決めた2社のうちの1つ、Ruby開発(本社=東京都中央区)の芦田秀之社長に、進出の経緯や今後のビジョンを聞いた。

人口減少と産業衰退。島の危機を前に芽生えた使命感

大分県北東部にある国東半島。そこからフェリーで北上すること約20分。目の前にぽっかりと、小さな島が浮かんでくる。「朝、散歩していると、鳥の鳴き声が聞こえてくる。道を一本挟んで、目の前に広がる海からは波の音が。なんて贅沢な環境だろう。ここで毎日暮らしていたら、人間の考え方が変わるんじゃないかと思ったんです」。こう語るのは、Ruby開発の芦田社長だ。

姫島村への進出の経緯や覚悟について、熱弁するRuby開発の芦田社長。

同社は社名の通り、Rubyを核にしたWEBアプリケーションの設計・開発などを手掛けている。2012年に東京で創業、福岡・仙台・大阪のほか、今年5月にはベトナムに子会社を設立するなど、順調に事業を拡大させている。

今回の姫島村への進出は、別のプロジェクトで一緒になった県から強く勧められたことがきっかけだったという。「まずは視察を」と軽い気持ちで降り立った島で、芦田社長は思いかけず強い使命感を抱くことになった。

「島の人口はどんどん減っており、主要産業の漁業も衰退している。高校進学とともに島を出た人たちは、島に戻りたくても仕事がないから戻れない。漁業に変わる産業を育てないと、村の将来がない。強い危機感を感じました」

同時に、島の豊かな自然や食文化にも魅了されたという。「鳥の鳴く声と海の波の音が響き渡り、景色は抜群。食も豊かで、例えば名産である車海老は生で食べたり、しゃぶしゃぶにして味わったり。東京では味わえない新鮮さです。また、島では自転車があれば不自由なく生活できます。徒歩で通勤することもできますし、大自然に囲まれながらの仕事は、きっと生産性も上がるでしょう」

国東半島からフェリーで北上すること約20分。目の前に浮かぶのが、姫島村だ。

姫島名物の車海老。しゃぶしゃぶも美味だが、生で食べるのもコリコリしていてオススメだという。

50社に打診するも、手を挙げたのはわずか2社

島の課題と魅力を目の当たりにし、迷わず進出を決めたという芦田社長は後日、県の担当者からある話を聞かされた。今回、県が村への立地を打診したのは50社以上に上ったが、その中で手を挙げたのはRuby開発を含む2社だけだったのだ。多くの企業が手を引く中での大胆な決断。本当に躊躇することはなかったのだろうか。

「当然、事業のことを考えれば未知数な部分が多いですよ。ただ、島の実情を聞き、すぐに『うちがやらなきゃ、そしてやりたい』という使命感が芽生えました。地方の若いエンジニアに仕事を提供し、最先端の技術を身につけさせたい。ITの力で島の課題を解決し、地域を活性化させたい。そして、将来的には島を『ITアイランドにしよう』と夢が膨らみました」

県や村の危機意識と熱意が芦田社長の心に火をつけ、姫島村は「ITアイランド」(芦田社長)への道を一歩踏み出したのだ。

島唯一の海水浴場。静かな波の音、そして道一本挟んだ先からは、鳥の鳴き声が聞こえてくるという。なんとも贅沢な環境だ。

「パソコンとネットさえあれば、島でもどこでも関係ない」

Ruby開発が事業を開始するのは、12月の予定だ。拠点となるオフィスは、小学校の旧理科棟(2階建て、延べ320㎡)。現在、県や村がインターネット環境を整備するなど改修工事を進めている。同社はここで、初年度に3人の社員を採用する計画で、既に2人が内定済みだという。福岡在住で上場企業に勤める30代のエンジニアと、来春卒業予定の県内の専門学校生だ。

オフィスとなる地元小学校の旧理科棟。現在、インターネット環境を整備するなど改修中で、12月の事業開始を予定している。

具体的な事業内容などはこれから検討していくことになるが、離島での事業展開が社内調整や顧客との関係性などにおいて不利に働く懸念はないのだろうか。芦田社長はそうした不安をきっぱりと否定する。

「私たちの会社は、パソコンとインターネット環境さえあればどこでも仕事ができます。社内のコミュニケーションという点では、今も毎朝、ベトナムを含むすべての拠点でインターネットをつないで会議をしていますし、お客様ともクラウド上で一緒にプログラムを更新できる環境を整えています。インターネットがつながれば、島でもどこでも関係ありません」

それでも、課題や不安が全くないわけではない。例えば、宿泊施設の整備だ。島には現在、複数の旅館があるものの、大量の客を迎え入れる余裕はない。また、今後も企業誘致をめざすうえでは、社員らの住宅を確保することも欠かせないという。芦田社長は、「これから移住してくるような人たちの生活を考えて、ライフラインを整備する必要がある」と指摘する。

”姫島だけ”のコワーキングスペースや勉強会を構想

姫島村を「ITアイランド」にーー。そう力強く語る芦田社長は、具体的にどのような島の将来像を描いているのだろうか。

現在、県や村に様々な要望・提案を行っている最中だが、その1つにコワーキングスペースやカフェの整備がある。海が一望できる港の近くに建設し、インターネット環境も整備する。そうすれば、島外・県外の企業社員やフリーランスの人たちが、短期滞在で仕事ができるようになる。さらに、「姫島でしか聞けない最新のIT技術」(芦田社長)といったテーマでの勉強会の開催も想定しているという。「漁業に変わる産業に育てるには、私たち2社では全然足りません。こうした独自の実績をどんどんつくり、まずは姫島村の存在を多くの人に知ってもらえるようにしたい。そして、近い将来には『ITといったら姫島村だよね』と言われるような場所にしたいですね」

Ruby開発は各地に拠点を広げながら事業を拡大させている。今回の姫島への進出は、また新たな挑戦だ。

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シフトローカル編集部。シフトローカルなメンバーが集まって構成している。

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