世界遺産の知床でテレワークとドローンフェス。ITで地域活性に挑むProp Tech plus

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日本の雄大な自然を象徴する場所の1つ、世界自然遺産・知床(北海道斜里町)。今ここに、首都圏の企業に勤める社員がテレワークで数多く訪れている。その1つが、IT企業のProp Tech plus(本社=東京)だ。数年前から同町でのテレワークを実施し、今年5月にはITを活用した地域活性を進めるための連携協定を締結。さらに、テレワークの拠点は広島県安芸高田市にも増やした。その狙いはどこにあるのか。同社が考える柔軟な働き方、そして地域との関わり方とはーー。

「知床ドローンフェスタ」にレーサーや住民が熱視線

青く晴れ渡った大空を、150kmの猛スピードでドローンが駆け抜けていく。ドローンの先端に取り付けられたカメラの映像を見ながら、手元の機械で操縦し、速さを競う人たち。それはまるで、空を飛んでいるかのような感覚だ。

これは、9月16日に北海道斜里町で開催された「知床ドローンフェスタ」の一幕だ。ドローンの速さを競うレース大会には国内トップレベルの12人のレーサーが集まり、腕前を競い合った。来場者はその迫力に度肝を抜かれた様子で、大きな歓声を上げていた。ほかにも、ドローンのプログラミング教室などが行われ、地域住民らは珍しい体験を楽しんだ。

ドローンのレース大会には国内トップクラスのレーサーが集結

この「知床ドローンフェスタ」を主催する実行委員会の一員に、東京・虎ノ門に本社を置くIT企業の名前がある。不動産金融業界向けのシステム開発・WEBサイト構築や、ドローン撮影事業などを手がけるProp Tech plusだ。

なぜ遠く離れた知床でイベントを開催したのか。そもそも、斜里町とはどういう関係があるのか。それは、釣りを愛する社員の「仕事をしながら、鮭を釣りたい」という一言から始まった。

フェスタではドローンを使った子ども向けのプログラミング教室も開催

「鮭を釣りたい」。ある社員の一言から始まった

斜里町は北海道東部、オホーツク海に面した人口約12,000人の町。漁業と農業に加え、世界自然遺産の知床をはじめとする観光業も盛んだ。一方で、人口減少や若い世代の流出に頭を悩ませている。そこで2015年、総務省の「ふるさとテレワーク事業」を活用。これを皮切りに、近年は首都圏からテレワーカーを呼び込む動きを強めている。

世界自然遺産の知床で有名な斜里町。雄大な自然が広がる

この事業に応募したのが、Prop Tech plusだった。斜里町の取り組みを知った釣り好きの社員ら2人が、まずは数週間お試しで現地に滞在。すると、雄大な自然や豊かな食、それに行政をはじめとする地域の歓迎ぶりに心を打たれたという。

ちょうどその頃、会社としても社員の柔軟な働き方をどう進めるか。経営陣を中心に検討を進めていたという。実際、それ以前から在宅勤務を認めたり、社員が多く暮らす東京・調布市にもオフィスを構え、そこで働く制度を導入したりしてきた。斜里町でのテレワークは、そうした経緯があって実現したことでもある。

そして、2人の社員が斜里町に試験的に滞在して以降、斜里はProp Tech plusの“新たな拠点”となっていく。翌2017年から年に2度、毎回10人前後の社員が1週間程度、斜里町でテレワークを行うようになった。現地の宿泊兼コワーキングスペース「しれとこらぼ」に滞在しながら、それぞれ仕事に打ち込み、町の暮らしを楽しむ。家族を連れて行く社員もいるという。

「しれとこらぼ」の様子。ここを拠点に社員がテレワークしている

新規事業推進部の高野さと子さんは、「メンバーは毎回、あえて部署の違う社員を集めています。東京で同じオフィスにいても、席が遠かったり仕事で関わりがなかったりすると、お互いのことをほとんど知らないケースがあります。でも、斜里町でのテレワークでは朝から晩まで一緒に時間を過ごします。自然と、社員間のコミュニケーションが増えるんです」と会社の結束強化につながっていると話す。

テレワークを体験した社員からは「リフレッシュできる」「通勤が楽になった」「ご飯もおいしい」といった声が寄せられ、好意的な意見が大半を占めているという。

自身も何度も斜里町に通っている高野さん

町と連携協定。配車システムのアプリ開発も

こうして毎年テレワークを行っているうちに、行政をはじめとする地域との関係もどんどん深まっていった。そして今年5月、Prop Tech plusは斜里町とITを活用した地域活性化に関する連携協定を締結することになる。

これは、北海道北見市にサテライトオフィスを置くIT企業・Zooops Japan(本社=東京)との3者で結んだ協定で、ITを地域課題解決に活かすことやテレワークの推進、地元企業との連携に協力して取り組むことなどが盛り込まれている。

高野さんは、「斜里町でテレワークをしながらも、農協や漁協など地域の関係者と会う機会が増えていき、地域が抱えるいろんな課題を耳にするようになったんです。そういう中で、『ITで解決できることがあれば、ぜひサポートしたい』と町関係者と話していて。それが今回の協定締結につながりました」と経緯を語る。

今年5月、3者で連携協定に関する調印式を開催

それを具現化した取り組みの1つが、冒頭の「知床ドローンフェスタ」だ。夏場は利用されないスキー場を会場に使用し、全国的にも珍しい企画を盛り込んだイベントにすることで、町のPR効果を狙った。ドローンやテクノロジーに興味のある人や関係者の集客、子どもをはじめとする地域住民らにドローンの最新技術に触れてもらう機会の提供。それらを通して、地域に新しい風を吹かせたい。そういう思いを込めて企画したという。

ほかにも、すでに動き出しているプロジェクトが複数ある。タクシー・バスの配車システムや鳥獣対策、それに料理教室などのリモートレッスンだ。

これは、町や商工会議所、観光協会などが立ち上げた「斜里町スマート定住推進協議会」が実施するプロジェクトで、農林水産省の農村漁村振興交付金を活用して3カ年で進める事業だ。Prop Tech plusとZooops Japanが連携団体として加わり、技術提供を行っている。

配車システムでは、既存のアプリも活用しながら実証実験を行い、集めたデータをもとに地域に適した新しいサービスを模索している。地域の交通機関がドライバーの高齢化や経営難に直面する中、高齢者をはじめとする住民の移動を維持するためのチャレンジだ。

また、鳥獣対策ではヒグマなどによる農業被害を防ぐため、ドローンなどで出没状況を監視するシステムの開発を計画。リモートレッスンは、遊休施設にテレビ会議システムを設け、各界で活躍する首都圏の講師らによる料理教室などの講座を実施する内容だ。離れていても、有意義な学習機会を得られる仕組みをつくりたい考えだ。

社員のテレワークから始まったProp Tech plusと斜里町の関係は今、こうして大きな広がりを見せている。

「知床ドローンフェスタ」には地域住民を中心に約700人が参加。盛況裏に幕を閉じた

全社テレワークを実施。安芸高田市にも拠点

「虎ノ門を封鎖する」。今年7月22日からの5日間、Prop Tech plusは虎ノ門の本社を閉鎖し、全社テレワークを実施した。国や東京都などが主導して行われた「テレワーク・デイズ」に合わせた取り組みだ。対象は、自宅と調布市のオフィス、斜里町、そして新たに広島県安芸高田市を加えた4つの拠点。5日間、社員らはそれぞれ働きやすい場所を選び、ビデオ会議などで難なく業務をこなした。

高野さんを含め5人が参加した安芸高田市。この地域との縁は、斜里町を視察していた広島県内の自治体関係者との出会いから生まれたという。広島県は総務省のおためしサテライトオフィス事業を利用し、県内各地で関連施策を充実させている。それを知った高野さんは、「斜里町のケースを他の地域でもできないか」と対象の6市町を視察。その中で、安芸高田は「オフィスと宿泊棟を兼ねた施設があり、ここならすぐに実現できそう」とテレワークを実施することにしたという。

高野さんは、「安芸高田にもいろんな課題があり、人手不足などに直面していることがわかりました。『私たちにできることあれば、何かやりたい』と役場の人たちと話してるんです」といい、斜里町と同じように地域活性につながるような動きがこれから出てくるかもしれない。

このように、同社はシステム開発などを事業の軸に据えながらも、ITを活用した地域活性化にも熱心な姿を見せている。実際、高野さんが所属する新規事業推進部内にも、「Satellite Base」という新たなチームがつくられた。高野さんはそのリーダーを務める。各地域で、斜里町のような動きを強めていく。新チームの結成には、そうしたメッセージが込められているように見える。

高野さんはこう話す。「東京ではない違う環境でもしっかり仕事ができて、かつその地域の人たちと一緒にプロジェクトをつくっていく。他の地域でも、斜里町に近い動きができればと考えています。もちろん、それぞれ地域によって課題や置かれた状況は違いますが、少しずつノウハウを蓄積しながら、大きく広げていきたいですね」

地域は今、都会の人材や技術を求めている。そして、外から新しい風が吹き込まれることで、地域が少しずつ変わっていく。そうした動きが全国各地で生まれている。Prop Tech plusの取り組みも、ITと地域づくりの“幸せな関係”を考える大事なヒントになりそうだ。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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