テレワークで働き方はどう変わったか。広島にゆかりのあるリモートワーカーたちが語り合う

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複数の拠点をもちながら、働き、暮らし、楽しむ——。そんな新しいライフスタイルを実践する人たちの体験談を聞き、働き方や暮らし方のヒントを探るイベントが8月4日、都内で開催された。ひろしま瀬戸内移住フェア「2拠点ワークラボ~デュアルライフがもたらす豊かな暮らし~」。広島県東部の7市町(三次市、三原市、府中市、尾道市、福山市、世羅町、神石高原町)が移住相談ブースを構えたほか、県出身者や移住者らによるテレワークに関するパネルディスカッションを実施。会場には子連れを含め約90人が詰め掛け、広島やテレワーク、2拠点生活などをテーマに熱いトークが繰り広げられた。

大手IT企業マン、エンジニア、研究員らが集結

イベントの第一部、パネルディスカッションに登壇した4人は、広島市出身で都内の外資系IT企業に勤める山本裕介さん、東京のIT企業に所属しながら尾道市でリモートワークをしている陶山嶺さん、夫のUターンに伴い福山市に移住した野田直子さん、尾道市出身で一般社団法人日本テレワーク協会の客員研究員、椎葉怜子さん。まずは、4人の働き方や移住の経緯などを紹介しよう。

左から山本さん、椎葉さん、陶山さん、野田さん。

北海道・知床、徳島県神山町、奄美大島(鹿児島県)、五島列島(長崎県)。外資系IT企業でマーケティングを担当する山本さんが、これまでにリモートワークを行った場所だ。

「決して意気込んで『ローカルで仕事したい』という思いがあったわけではなく、たまたま“世界遺産で働きませんか”という広告を見て、申し込んで行ったのが知床半島だったんです」。山本さんは普段は都内で暮らしているが、知床半島を訪ねた2016年秋以降、すでに10カ所以上でリモートワークを実施。ほかにも、長野県の白馬・八ヶ岳エリアや和歌山県の白浜エリアなどにも足を運んでいる。山本さんはこうした働き方を、「ローカルリモートワーク」と呼んでいる。

「僕の場合は、第一目的が尾道に住むことでした。尾道に引っ越すことを前提に会社を探し、転職したんです」。そう語るのは、陶山さんだ。

大分県出身だが、広島大学に通っている頃に尾道でよく遊んでいた。卒業後は都内のIT企業に就職したものの、尾道が恋しくなり転職を決意。転職先のSENSY株式会社(東京)は尾道でのリモートワークを認めてくれて、2017年夏に念願の移住を果たした。現在は、同社のリードエンジニアとして働いている。

会場の席は約90人の参加者で一杯に埋まった。

野田さんは2017年、夫の実家がある福山市に3歳(当時)の娘とともに移住。兵庫県で生まれ育ち、社会人になってからはずっと東京で暮らしていた。移住は不意の出来事だったが、当時勤めていたIT系企業は広島にもオフィスがあったため、転職せずにそこを拠点に東京の仕事をそのままリモートワークで続けることができたという。

さらに、移住後は福山市を中心に勉強会やワークショップなどの「場づくり」を行う「チーム・カノバ」を立ち上げた。「ずっと興味があったこと」に携わることができ、充実した日々を過ごしているという。

今回、専門的な目線でテレワークの実態などを解説してくれたのが、日本テレワーク協会の椎葉さんだ。椎葉さんは、尾道市内にある因島の出身。女性の働き方やキャリアデザインなどを研究・支援する会社を経営しているほか、大妻女子大学の非常勤講師も務めている。

ファシリテーターの酒井裕次さん。尾道市因島出身で、デザイン会社を経営。東京と因島の2拠点ワークを実践しており、因島でも様々な地域活性プロジェクトを立ち上げている。

テレワーク導入率は13.9%。今後どこまで高まるか

ところで、そもそもテレワークとはどういう働き方を指すのか。聞き馴染みのある言葉だが、改めてその定義を確認しておこう。

日本テレワーク協会によると、「ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」を意味する。「リモートワーク」もほぼ同義だそうだ。そして、テレワークには働く場所によって3つの形態があるという。「在宅勤務」と、顧客先や移動中にパソコンを使う「モバイルワーク」、勤務先以外のオフィススペースで働く「サテライトオフィス勤務」だ。

日本テレワーク協会のホームページから抜粋。

総務省の通信利用動向調査(2017年)によると、企業におけるテレワークの導入率は13.9%。このうち、在宅勤務が29.9%、モバイルワークが56.4%、サテライトオフィス勤務が12.1%の内訳になっている。また、東京都が都内の企業に対して行ったテレワークの導入状況に関するアンケート調査(2017年、回収数1964社)では、「導入している」と回答した企業は約19%だった。「具体的に導入予定あり」「1年以内の導入を検討」「将来的に導入を検討」を合わせると40%超に達する。

各種調査では大企業ほど導入率が高かったり、業種によってばらつきがあるなど普及に向けて課題は少なくないようだ。それでも、労働人口の減少や育児・介護といった家庭事情の複雑化、またICT環境の整備などを背景に、将来的には導入率やテレワーク人口が増加していくことになりそうだ。

国も関連施策を充実させている。例えば、現在実施している「テレワーク・デイズ」。東京都などと連携し、7月22日から9月6日までの期間にテレワークの実施を呼びかける活動だ。3年目となる今年は現時点で2800を超える企業・団体が参加しているといい、その数は毎年増えている。

椎葉さんは、「テレワークは会社から離れたところで仕事ができるという点で、これまでの働き方を変える大きな発明になるのではないか」と今後の普及に期待感を示した。

テレワークで何が変わったのか。会社にもメリット

さて、ここからは再びパネルディスカッションに戻ろう。テレワークや移住によって、何が可能になったのか。働き方はどう変わったのだろうか。

「自分の働きたい場所や環境で、働きたい時間に働ける。仕事をしていても楽しいし、集中力も上がります。いいアウトプットが出せるのは、テレワークをしているときのほうが多いですね」。山本さんは、テレワークの利点をこう語る。また、「東京で普段付き合っている人とは違う属性の人たちと現地で出会えるのも大きい。有意義な情報交換ができ、視野が広がるんです」と続けた。

そんな山本さんは、6歳と4歳の子供を連れてテレワークをしているという。「子連れテレワークをしていて、困ったことはないですね」といい、滞在先の住民らが子供の面倒を見てくれることが多く、子供たちも普段とは異なる新しい環境で羽を伸ばしているそうだ。結果的に、家族と過ごす時間が増えたという。

野田さんも、移住したことで育児と仕事のバランスがうまく保てるようになった。現在は夫の両親と同居しているが、「娘の面倒を見てもらえるのは本当にありがたい」という。その分、精神的にも余裕が生まれ、「自分の可能性が開くきっかけになった」とチーム・カノバの立ち上げにつながった経緯を語った。

「東京では、仕事を◯時に切り上げて、子供を迎えに行って夕飯をつくってと、毎日魂を削って生きている感じでへとへとでした。その頃に比べると、今は相談できる人が近くにいるので、安心感がとても増しましたね」と笑顔で話す。

単身で移住した陶山さんも、念願の尾道暮らしを楽しんでいるようだ。仕事場にしている市内のコワーキングスペース「ONOMICHI SHARE」などを通じて仲間ができ、休日は尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」をツーリングしたりしているという。

仕事面では、アウトプットを目に見えるかたちで出すことに気をつけているそうだ。「東京と距離が離れている分、会社との信頼関係がより大事になります。信頼してもらうために、しっかり成果を見せるようにしてますね。『東京に戻って来い』と言われたくはないので(笑)」

一方、椎葉さんは「決して働く人たちだけでなく、会社や社会にもメリットある」と指摘する。「テレワークを導入している企業は生産性が高まるというデータもあるし、会社のイメージアップや優秀な人材の採用にも効果的です。また、地域活性化にもつながります。今、東京一極集中が進んでますが、テレワークが普及すればいろんな地域で働くことができるからです」と様々なメリットを挙げた。

問われるのは「自分がどうしたいか」。“今”が変えるチャンス

このように、すでにテレワークをはじめとして働き方がどんどん多様化しているわけだが、今後はどう変わっていくのだろうか。そして、私たち働き手にはどんな心構えや準備が求められるのか。

山本さんは、こう語りかけた。「働き方の選択肢が増えてきていて、同時にAIなど技術革新が進み、単純作業はどんどん効率化されていく。そうなったときに重要なのは、自分は何をしたいのか、どういう風に働きたいのか、どんな暮らしをしたいのか。それをはっきりさせたほうが、きっと人生を楽しめるし、実際にそれを実現しやすい社会になっていくと思うんです」

とはいえ、最初の一歩をどう踏み出せばいいのか、思い悩む人も少なくないはずだ。椎葉さんは、「例えば『テレワーク、求人』などでキーワード検索すれば、いろんな企業の情報が出てきます。テレワークを前提にした求人は、数年前と比べるとずいぶん増えてきている。今がチャンスです」とチャレンジを促す。また、今勤めている会社にテレワーク勤務を相談してみるのも手だという。それがきっかけで、実際にテレワークが認められたり、社内で制度化されるケースもあるからだ。

一般の参加者も、登壇者とともに移住やテレワークについて語り合った。

そうして熱気に満ちたパネルディスカッションを終えると、今度は別の移住者4人による体験談などが披露された。世羅町でお茶農家に転身した男性や、三原市に移住したイラストレーターの女性らが、移住の経緯や現在の暮らしぶりを語り合った。さらに、その後は登壇者と参加者がテーマごとに分かれて語り合うワークショップも実施。会場内には7市町の移住相談ブースも設置され、参加者が自治体や企業関係者と熱心に情報交換する場面も見られた。

県東部7市町の相談ブースにも多くが押し寄せた。

どこか1つの場所や地域で働き続ける。毎朝、オフィスに電車で通勤する。長く日本のスタンダードだった働き方は今、緩やかに変化している。好きな場所で、好きな時間に仕事をする。そんな夢物語に思えるようなことが、本気で叶えられる時代になっていくだろう。イベントに登壇したリモートワーカーたちは、そう訴えかけているようだった。

▼広島県の主な移住関連情報
◎ひろしま移住サポートメディア「HIROBIRO.」
https://www.hiroshima-hirobiro.jp/
◎広島県交流・定住ポータルサイト「広島暮らし」
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/kouryuuteizyuuportalsite/

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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