廃校を2拠点生活の発信地に。南房総に出現したシラハマ校舎

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廃校を多様なライフスタイルの発信地にするーー。舞台は、千葉県南房総市白浜町にある「シラハマ校舎」。昔ながらの平屋建ての廃校を宿泊やシェアオフィス、コワーキングスペースなどに使えるように改装し、校庭には無印良品が手がけるスモールハウス「無印良品の小屋」が並ぶ。都心から約2時間、房総半島の最南端に突如現れた異空間を訪ねた。

シェアオフィス、コワーキング、宿泊、カフェ…

JR新宿駅から高速バスに揺られること2時間弱。房総半島の中心地の1つ、JR館山駅に到着した。そこからバスに乗車。海風と潮の香りを浴びながら30分ほど走ると、カラフルな塀に囲まれた「シラハマ校舎」が見えてきた。

塀には当時の生徒たちが描いたペイントが並ぶ。都会の無機質なコンクリートにはない”ぬくもり”や”温かみ”が感じられる。

中に入ると、左手に「無印良品の小屋」が目に飛び込んでくる。中央から右側に位置する平屋建ての建物がシェアオフィス、その奥にある別棟に宿泊施設やコワーキングスペースがある。

さて、施設に入るとオーナーの多田朋和さん(合同会社WOULD・代表)が出迎えてくれた。

多田さんは、香川県高松市出身。千葉県内の大学を卒業後、インテリア関連の会社に就職し、店舗の内装設計などに携わった。その後、実家の不動産業を手伝うために帰郷。ただ、一般的な不動産業に飽き足らず、「不動産やインテリアを生かした新しいビジネスができないか」と再び千葉へ舞い戻った。

そんな中、南房総市にかつてホテルの社員寮として使われていた空きビルがあることを知る。目の前に広大な海が広がり、背後には山々がそびえる。抜群のロケーションが気に入り、賃貸契約を結んだ。

2010年、そこをシェアハウスやゲストルーム、カフェを併設した複合施設としてオープンしたのが「シラハマアパートメント」だった。オープン以来、都心に住む人が週末に利用したり、地元の人がカフェでくつろいだりと”憩いの場”になった。ちなみに、多田さんはカフェのお客さんだった地元出身の女性と結婚した。

シラハマアパートメントの運営が軌道に乗り始めたころ、市が廃校になった小学校(旧長尾小学校・幼稚園)の利用案を募集していることを知る。それが、現在のシラハマ校舎だ。シラハマアパートメントの機能に「無印良品の小屋」などを組み合わせた事業プランで、見事コンペを勝ち抜いた。2016年に入ってから改修工事を進め、同年秋にオープン。現在は、カフェ・レストランの営業も含め、奥さんと2人で施設を切り盛りしている。

校庭には「無印良品の小屋」が10棟

次に、校舎の中も見学させてもらった。主な機能はシェアオフィス、宿泊、コワーキングスペース、カフェ・レストラン、そして校庭に立ち並ぶ「無印良品の小屋」だ。

シェアオフィス

オフィスは全部で10部屋ある。約20坪のオフィスが2部屋、10坪程度の小さなオフィスが8部屋。もともとは小学校の教室だった空間だ。月55,000円から借りることができ、現在は7部屋が契約している。

都内のコンサルティング会社などがサテライトオフィスとして活用していたり、大学のサテライトキャンパスとして利用されているという。20坪の大きなオフィスは1日単位のイベントなどでの利用のほか、社員研修や合宿にも使われ、都内のIT企業がプログラミングの開発合宿で訪れた例もあるそうだ。高速のインターネット回線も整備されており、自然に囲まれたストレスフリーの環境は開発作業が一気に捗りそうだ。

宿泊(ゲストルーム)

宿泊のゲストルームは2部屋、素泊まりで1人5400円〜(2人以上の利用)の設定だ。週末は都心から訪れる宿泊客で予約が埋まるそうで、平日は企業の社員研修や大学のゼミ合宿などで使われるケースが多いという。

共用のシャワールームも木目調で癒し効果抜群だ。

部屋の内装や備品にもこだわっており、例えばこちらの部屋には1950年代からニューヨークで使用されていたプレジデントデスク(写真下)を輸入して設置。重厚で落ち着いた空間は、仕事や読書などに集中できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

コワーキングスペース「AWASELVES」(アワセルブズ)

施設内には、ワンタイム(1日)や月額会員で利用できるコワーキングスペースも設けた。個人利用のほかに、法人契約でミーティングなどにも使える。

 

カフェ・レストラン「Bar del Mar」(バルデルマル)
地元の海や山の幸を使った料理を味わえるのも、シラハマ校舎の魅力の1つ。カフェ・レストランでは、近くの畑で採れる野菜や、国内随一の漁獲量を誇る房州海老(伊勢海老)などの新鮮な食材を堪能できる。

(提供:シラハマ校舎)

 

(提供:シラハマ校舎)

テーブルは図工室の机、食器棚は理科室でかつて使われていたものを使用しており、どこか懐かしさを覚える空間だ。シェアキッチンもあるので、ここで自炊することも可能という。

宿泊客以外にも、特に小学校の卒業生が懐かしがって来店するケースが多いといい、地元住民にとっても心安らげる場所になっている。

 

 

 

 

 

「無印良品の小屋」

「無印良品の小屋」は、無印良品を手がける良品計画が、多様なライフスタイルが広がる中で打ち出した新たな住ビジネスだ。広さ12㎡(平米)の小屋を、300万円(標準仕様)で販売している。その日本初のモデルケースとなったのが、シラハマ校舎だった。販売は良品計画、施設の管理・運営をシラハマ校舎が担う。

 

小屋自体は12㎡だが、シラハマ校舎では”庭付き”の区画(80〜90㎡)で販売しており、空いたスペースは購入者が菜園にするなど自由に使えるそうだ。

校庭に整備した全21区画中、現在は10棟(区画)が立ち並ぶ。購入・利用者は中小企業の経営者や都心に住む比較的高給のサラリーマン、年齢は30〜50代が中心で、週末に畑仕事をしたりする2拠点居住が目的のケースが多いという。また、企業が福利厚生の一環で、社員が利用できる保養所代わりに購入した例もあるそうだ。

多田さんは、「例えば、伊豆に1000万円で別荘を建てるか、都心から2時間で行ける自然豊かな場所に300万円で小屋を建てるか。そう考えたとき、経済的な面や交通の便からも、ここを選ぶという選択肢があっていいと思うんです」と話す。

(提供:シラハマ校舎)

 

片足を突っ込む。お試し移住に最適の場所

さて、そんなシラハマ校舎のある南房総市はどんな場所なのか。都心から車で約2時間とそう遠くない場所にある、海と山に囲まれた自然環境豊かな場所。半島ならではの温暖な気候も特徴と多田さんは話す。

加えて、「開発されていない分、ポテンシャルが高い場所」でもあるという。例えば、耕作放棄地をはじめ未開発の土地がたくさん残っている。多田さんは海岸沿いの土地を購入し、今ぶどうの木を植えているそうだ。将来的にはワインを製造するワイナリーをつくりたい。そんな構想もあるという。

「何をやるかはそれぞれの選択次第ですが、自分のやりたいことにチャレンジできる。都心に比較的近い関東圏で、こんな特殊なエリアは探してもなかなかないと思いますよ」

さらに、「お試し移住に最適の場所」とも話す。「0か1かの移住はリスクも高いですし、僕自身はあまりオススメしません。一度片足を突っ込んで、ダメだったら帰ればいい。それくらいの気持ちで、移住や2拠点生活を試せる利点が南房総にはあります」

校舎の間にある通路には石畳が敷かれ、どこか風情を感じさせる空間になっている。

テクノロジーとノスタルジーの混在

シラハマ校舎はオープンして1年半余りが経過した。多田さんは今後について、「地元住民と都心から訪れる人がもっと交流できるような機会をつくりたい」と話す。これまでも地元の子どもたちを対象に、地元出身のイラストレーターによる木版画のワークショップやパンづくりのイベントなどを開催してきたが、そうしたイベントを通じて地域内外の交流が生まれるようなコミュニティづくりを行っていきたいという。

校舎横に備え付けられたテスラの充電設備

さらに、「現代のテクノロジーと、風情あるノスタルジーが混在した場所づくり」も大事にしているコンセプトの1つだ。例えば、シラハマ校舎には電気自動車メーカー「テスラ」の充電設備がある。同社は、自動運転技術の研究開発でも有名だ。「そう遠くない将来、自動運転時代が到来すれば、ボタン1つで東京へ移動できるようになるでしょう。オンライン会議をしながら移動するようなことも、十分考えられます。旧廃校のノスタルジーな空間と、最先端の尖ったサービス。そのギャップを売りにして、都会の人たちにもっと南房総に来てもらいたいと思っています」

移住やサテライトオフィスの利用だけでなく、1日単位のコワーキングや社員の研修・合宿などにも使える。そんな幅のある使い方ができるのが、シラハマ校舎の特徴だろう。海山に囲まれた自然と、温暖な気候も魅力だ。ぜひ一度、立ち寄ってみてはどうだろうか。

(提供:シラハマ校舎)

 

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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