入社2年目で「移住」と「経営」を決意。高知で新ビジネスの開発に挑むSHIFT PLUSの今

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2015年4月に高知県で設立されたSHIFT PLUS(本社=高知市)が、開発エンジニアを含め、積極的に人材を採用しながら順調に業績を伸ばしている。主な事業は、ゲームやスマホアプリの品質保証とカスタマーサポート業務だが、昨秋には首都圏の大手企業に勤務していた人材をIターンで迎え入れ、新規事業の開発にも力を入れていく計画だ。SHIFT PLUSの松島弘敏社長に、これまでの足跡や地方での経営、キャリアアップについて聞いた。

ビジネスで地方を活性化する。芽生えた使命感

そもそも、なぜ高知県だったのか。それは、SHIFT PLUSの武市智行・会長が高知県出身だったことから始まった。武市会長は、大ヒットゲームを手がけた経歴もあるゲーム業界では名の知れた人物だ。一方で、2011年に高知コンテンツビジネス創出育成協議会を立ち上げ、経験や人脈を活かしてIT企業の誘致を含めた故郷の活性化にも情熱を注いでいる。

IT企業を地方にーー。そのビジョンや思いに共鳴した、ソフトウェアの品質保証業務を手がけるSHIFT(東証マザーズ上場)とゲーム開発・運用のオルトプラス(東証一部上場)に共同出資してもらい、2015年4月にSHIFT PLUSを設立した経緯がある。

SHIFT PLUSの松島社長は会社設立前、SHIFTに在籍していた。当時、まだ入社1年目。急転直下だった高知への移住や社長就任は、どのように実現したのだろうか。

のどかな風景が広がる。高知県はIT企業の誘致を積極的に進めている。

ーー高知県とはどんな縁があったのでしょうか?
僕は大阪出身で、当時は東京で働いていました。高知とは全く縁もゆかりもなく、行ったことさえもありませんでした。2014年にSHIFTに入社し、営業や人事を担当してまだ1年未満。そんなときにオルトプラスと合弁で高知に会社を設立することに。その社長を募集する社内公募に手を挙げ、抜擢してもらったのです。

ーー初めて経験する「移住」と「会社経営」。思い切った決断ですね。
会社設立と同時に移住して2年9か月ほど経ちますが、現在は毎月1/3程度は東京で仕事をしています。仕事の面ではやはり、都心の方が情報が早いですし、より感度の高いビジネスマンと交流できるのは大きいですね。ただ、高知は自然が豊かで、(SHIFT在籍時に)東京だけで働いていた頃よりもリフレッシュでき、その分会社の未来について良質な思考をする時間が保てており、非常に良いバランスだと感じています。

ーー「地方での経営」は難しい面もありそうです。
そもそも経営そのものが新しい経験ですし、しかも見知らぬ土地ですからね。動き出した当初は目指すべき方向に対して迷う時期もありましたが、今は自分なりの信念をもって働いています。色々と苦悩する中で、「企業経営で地方を活性化させる」という使命感が生まれてきたんです。

ーー「企業経営で地方を活性化させる」とは?
高知は高齢化率の高さをはじめ全国的にも衰退が激しい地域の1つです。現場に立って、その危機的状況を肌で実感するようになりました。でもだからこそ、僕らの会社の成長とともにビジネスで地域の課題を解決できれば、高知が盛り上がることはもちろん、成功企業のモデルとして他の地方にも良い影響を与えられる。それが、自分が果たすべき使命だと覚悟するようになりました。

高知城は観光スポットの1つ。他にも四万十川など見所は少なくない。

社員の9割が高知出身、プログラマーはUターン中心

同社が担っている主力事業は、ゲームやアプリの不具合の発見や改善提案を行う「品質保証」と、ユーザーの問い合わせに対応する「カスタマーサポート」の二本柱だ。これらは一般的に別々の会社が担うケースが多いと言われるが、これを「ワンストップ」で提供できることを売りにしているという。また、設立当初は松島社長を含め28名で創業した従業員も、県出身者を中心に2年9か月で100名ほどにまで増加している。そんな社内体制や社員採用の実態も尋ねた。

ーー社員は随分と一気に増えているのですね。
はい。約9割が高知県出身者で、そのうち2割弱がUターンです。プログラマー経験者も何名かいてそのほとんどが高知県出身ですが、都心で技術を積んだUターン採用がメインですね。ITやゲームに関連する事業を手広く手がけているのは県内では珍しいので、そのあたりが採用につながっているのかもしれません。

ーー取引先は東京にも多いのでは?
東京には営業担当が1名、常駐しているので(現在もう1名採用活動中)、機動的に動ける体制にあります。基本的に現場の営業は一任しているので、僕はマネジメントや経営に集中できる環境にありますね。もちろん、時にはトップ営業も必要ですが。今はまだ層が薄い役割としては、未来に対して何をするのか。つまり、新規事業や経営計画を企画、推進していくメンバーです。これは現状、僕や数名の中心メンバーで行っていますが、これから会社を成長させていく中で徐々に増やしていきたいです。

社員は県出身者を中心に100人ほどにまで増えている。

社員の2割弱がUターンで、都心で技術を積んだプログラマーもいる。

東京並みに先端の仕事ができる環境を

こうして順調に経営を軌道に乗せる中、現在は新規事業の開発にも乗り出している。昨年9月には、Iターン採用した首都圏の大企業出身者が入社。積極的に事業開発を進め、将来的にはプログラマーなどの技術職が高知でもキャリアアップできるような体制を構築したいという。例えば最近では、AI(人工知能)を搭載したチャットシステムによるカスタマーサポート「AICO」(アイコ)をリリースした(※)

(※)SHIFT PLUS、カスタマーサポートの新サービス「AICO」を提供開始 「自動解決チャット」とオペレーターとのチャットでユーザーの問題解決
http://gamebiz.jp/?p=197168

ーー新しい事業の立ち上げにも熱心ですね。
昨年9月に力強い仲間が加わりました。東京の大手人材系企業に勤務していた者です。いわゆる”都会に揉まれたバリバリのビジネスマン”の入社は初めてです。新規事業の開発は彼に一任して、これからどんどん加速させていきたいですね。品質保証とカスタマーサポートの安定した収益基盤がある分、新規事業に踏み出しやすい環境にあるのも大きいと思います。

ーープログラマーなどIT専門職の地方勤務については、どんな考えを?
現状は東京で一度高い技術を学んだり、激しい競争を経験してスキルアップを図る方がいいでしょうね。でも、僕らはそういう状況をなんとか変えたい。東京に行かなくても、人材が育っていくような環境を整備したい。そう考えています。例えば、AIのチャットシステムを使ったカスタマーサポート「AICO」のように、東京並みに先端的な仕事ができるポジションは既にいくつかあります。新規事業を増やしながら、高知にいながらもキャリアを積めるような状況をつくりたいですね。

ーーIT企業の地方進出も最近は増えています。
サテライトオフィスを構えるケースは増えています。ただ、支社の場合はどうしても本社のサポートの意味合いが強く、業務範囲やキャリアが限定されがちな面があります。これからは、支社ではなく本社を地方に増やす。そうした次のステップに移行できるかどうかが地方活性化のカギになるのではないでしょうか。

昨年10月、SHIFT PLUSの本社オフィスには見慣れぬ若者たちが数多く集まっていた。今年3月卒業予定の新入社員の内定式が行われていたのだ。熱く語りかける松島社長と、真剣な眼差しを向けながら話に聞き入る内定者たち。互いに会社の将来に、夢を膨らませていたことだろう。新たなメンバーを加え、SHIFT PLUSはまた一歩、前へ踏み出していく。

昨年10月に開催した内定式。新しいメンバーを加え、SHIFT PLUSは進化していく。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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