ITエンジニアの”高知ネットワーク”が始動。地元経営者らと交流深める

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高知県へのUIターンや起業などに関心のある首都圏在住のITエンジニアやクリエイターらが、移住に関して情報交換や交流を深める「高知家IT・コンテンツネットワーク」。9月9日、初の交流会が都内で開催された。これを皮切りに、現地でのイベントを含めて参加者同士の関係を深める取り組みを積極的に仕掛ける計画だ。高知県は高齢化や人口流出が全国に先駆けて進む地域の1つだが、IT関連企業や人材の誘致に力を入れている。「高知×IT」の行方は果たして…。熱気漂う交流会を取材した。

定員70人に希望者が殺到、知事も来場

まだ夏の暑さが体に堪える9月9日午後、会場となった都内のヤフー本社は、休日にも関わらず多くの人で賑わっていた。高知県知事からインターネット関連企業の経営者、県内企業のIターン者などまで、多彩なゲストが熱の込もったトークを繰り広げる。参加者は熱心に耳を傾けていた。

高知家IT・コンテンツネットワークは、首都圏に住む県出身者をはじめ、同県への移住や起業、キャリアアップに興味を抱くエンジニアやクリエイターらが情報交換したり、交流することなどを目的にしたネットワークだ。高知の魅力を知り、また互いに交流することで移住への不安を柔らげ、最終的に移住などを促進するのが狙い。この日開かれたのは、高知に関心のあるエンジニアらが顔を突き合わす最初の交流会。定員70人の枠は早々に埋まり、県の魅力をPRするために知事や県内経営者らも足を運んだ。

会の口火を切ったのは、尾﨑正直知事だ。知事は、高知の魅力について豊かな自然や食文化、農業などとともに、何より「クリエイティブな人材が多いこと」を挙げた。その筆頭が漫画で、「アンパンマン」の作者・やなせたかしさんなどを例に挙げ「1人あたりの漫画家の輩出数は傑出している」と強調。4年ほど前からIT関連企業の誘致にも力を入れており、実際に多くの企業・移住者が今、県内で活躍しているという。「IT・コンテンツ企業にはもっと来てほしいし、新しい人材も求めている。東京で生まれたこうしたよきネットワークを、これからどんどん拡大していきたい」と意欲を見せた。

高知から足を運んだ尾﨑知事。IT企業の誘致と、エンジニアなどの人材確保に意欲を見せた。

高知では毎年、高校生を対象にした全国規模のコンクール「まんが甲子園」が開催されている。アンパンマンの作者・やなせさんも高知出身だ。

高知から新事業を、高知にしかない技術を!

さらに、県内でIT関連事業を展開している企業の経営者らも登壇。ソーシャルゲームの品質保証やカスタマーサポート事業などを展開しているSHIFT PLUSの松島弘敏社長は、大阪出身のIターン者だ。

松島さんは、高知は高齢化率の高さなど全国でも上位を争う地方衰退の先進地であると指摘したうえで、「裏返せば、高知で成功すればどこでもできる。最もピンチの県だからこそ、インパクトは大きい」と持論を展開。また同社は、「高知から新しい事業を世界に」をテーマに新規事業開発にも積極的に取り組んでおり、現在は介護IoTの研究を進めているという。「今、会社はまさに成長への第2創業期。高知から新しい事業作っていきましょう」と力強く呼びかけた。

地元IT企業の経営者の話に熱心に耳を傾ける参加者たち。前方でマイクを握るのは、SHIFT PLUSの松島社長。

「人”高知”能計画」をキャッチフレーズに掲げ、高知を拠点にAI(人工知能)の技術開発に取り組むのは、AIを活用した対話システムを開発しているNextremerだ。本社は東京に置くが、開発拠点となる研究所を県内に構え、現在17人のエンジニアが在籍する。
高知AIラボ代表の興梠敬典さんは、2015年のラボ設立とともに県内に移住。大切にしているのは、「テクノロジーのエッジを攻める」ことだ。これは、地方へ行くと都会と比べて技術レベルが下がったり、質の高い仕事に恵まれないといった風潮を打破するためで、「地方を単価の安いアウトソーシング先として見るのではなく、高知にしかないビジネス・技術を開発すべきだ」と訴えた。

Nextremerが掲げる「人”高知”能計画」。興梠さん(前方)は、高知をAIの一大産業地にする目標を熱弁した。

他にも、デジタルマーケティングなどを手がけ、広告運用のオペレーションセンターを県内に置くアイレップと、制御ソフトウェアの開発を行うパシフィックソフトウェア開発もそれぞれ自社の魅力をアピールした。

参加者同士、それぞれの仕事などを紹介しながら交流する時間もあり、会話が弾む(※一部画像処理を施しています)

交流会ではこのほか、最新のIT・インターネット市場の動向や、多様な働き方に詳しい経営者らによる講演も行われた。

その1人が、アイレップの紺野俊介・社長CEOだ。紺野さんは、自動運転のほか、民泊事業を展開するAirbnb(エイビーアンドビー)や配車サービスのUber(ウーバー)を筆頭とするシェアリングエコノミーの浸透などを例に「10年前まで考えられなかったようなことだが、ネットを通して新しい産業が生まれている」と指摘。そのうえで、「今後もAIの進化などで生活や仕事の内容は変わっていく。機会創出のチャンスである一方で、場合によっては危機になってしまう。技術的な進歩を追いながら、日々生活することが必要だ」と訴えた。

アイレップの紺野・社長CEO。最新のネット動向などを披露し、今後の生活や仕事のあり方について語った。

さらに、”パラレルマーケター”の異名をもち、複数の企業でマーケティングに携わるなどユニークな働き方をしている小島英揮さん。高知県出身でもある小島さんは、ITや科学が急速に進歩する中、「外のものさしを知ることが重要」と話す。1つの居場所にとどまらず、普段は接点のない人たちが集まるようなコミュニティや勉強会に参加するなどして”外のものさし”を手にする。それが社会・経済の変化を嗅ぎ取るために有効と指摘した。

高知県出身でもある小島さんは、積極的に外のコミュニティや世界に出て時代の変化を嗅ぎ取ることが大事と指摘する。

今後も高知、東京でイベントを定期開催

高知家IT・コンテンツネットワークの事務局として、運営に携わるエイチタスの取締役でデザインプロデューサーの湯浅保有美さんは、「こういう移住のネットワークやイベントは”開催ありき”になりがちだが、私たちはその後も参加者同士が継続的に交流したり、関心を持ち続けられるように寄り添いながら、サポートしていく」と話す。

今回の交流会は、これから参加者同士のネットワークを強化していくための第一歩。今後も9月に高知で複数のイベントを開催するほか、東京でも10月以降、小規模な交流会を随時開いていく計画だ。さらに、今回と同規模の2回目の交流イベントも、来年1月に都内で開催する予定という。

この日のプログラム終了後に開かれた懇親会では、高知県の食材を嗜みながら参加者同士、またゲストらが笑顔で会話を交わすシーンが広がった。熱気に満ちたこの光景は、今後の同ネットワークの広がりを予感させるようだった。

懇親会では高知県産の食材を使った料理がずらりと並び、参加者は舌鼓を打った。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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