奄美大島、高い移住率の理由はーー。“祭り”のような求人イベント「島でジョブセンバ」に潜入してきた

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南の島で仕事しませんかーー。奄美大島(鹿児島県)の企業とUIターン希望者が集うマッチングイベント「島でジョブセンバ2019」が9月8日、都内で開催された。IT関連を含む企業10社と、島での暮らしに関心をもつ約70人が参加。各社のプレゼン、移住者のトークショー、個別相談、さらには郷土料理を味わいながらの懇親会と、盛り沢山のメニューで会場は大盛り上がり。過去には、参加者のおよそ4人に1人が実際に移住したというイベント。その現場に行ってきた。

40人中10人が移住? むしろ人手が足りない

「本日は、ありがっさまりょうた」。奄美の方言で「ありがとう」を指す感謝のフレーズでスタートした「島でジョブセンバ2019」。「ジョブセンバ」とは、英語の「JOB=仕事」と、奄美の方言「せんば(しないといけない)」を掛け合わせた造語。主催するのは、奄美大島の地域情報メディア「しーまブログ」や求人フリーペーパー「JOB SENBA」などを手がける株式会社しーまだ。

「奄美大島には仕事がないから外へ出る。昔から島でよく言われていたことです。でも、実際に生活していると、逆に多くの企業が『人手が足りない』と困っていることに気がついたんです」。そう話すのは、しーまの代表・深田小次郎さんだ。このように、企業の多くが人材不足に悩んでいる一方で、近年は都心から地方暮らしへシフトする動きが加速している。双方の接点をつくろうと、2017年からこの「島でジョブセンバ」を毎年開催している。

イベントを主催する、しーまの代表・深田さん

実は深田さん自身も、夢を追って一度は東京へ出た身だ。プロドラマーを目指して上京。音楽漬けの日々を送り、念願のデビューも果たした。ただ、30歳の節目を前に「音楽の道を離れて、地元に帰ろう」と決意。2010年にUターンし、「しーまブログ」を立ち上げた。ブログは会員数が約5500人、月間200万ページビューを数えるメディアに成長した。

「僕から音楽をとったらどうなるのか」と不安を抱えながらの船出だったが、今では総勢10人のスタッフでメディアやイベント運営などに忙しい日々を送っている。「好きな仕事を、好きな仲間とやれているのが幸せ」という。

今年で3年目を迎えた「島でジョブセンバ」は、昨年は約40人が参加し、このうち10人ほどが実際に移住したそうだ。今年は東京のほか、10月に大阪でも開催。いわゆる企業説明会のような形式ではなく、気軽に楽しめる雰囲気なのが特徴という。飾らない雰囲気が、高いUIターン率につながっている秘訣の1つなのだろう。

10社が白熱のプレゼン。IT企業もUIターンを歓迎

この日のイベントには、しーまを含めた10社が参加。そして、目玉企画の1つ、各社によるリレー方式のプレゼンがスタートした。

IT、WEB関連企業も3社がプレゼンに臨んだ。まずは、企業向けのソフトウェア開発を手がける有限会社アイ.タイムズだ。

奄美市に本社を構え、鹿児島市と福岡にもオフィスを置いている。社員は45人で、このうち開発拠点の「奄美ニアショア開発センター」には約30人のエンジニアが在籍。東証1部上場企業を含む首都圏の企業との取引も多い。

米澤亮治社長は、「社員は奄美出身もいれば、東京出身もいる。いろんな地域から加わってもらっている」とUIターンを歓迎。さらに、未経験者や育児に忙しい母親社員も第一線で活躍していることを紹介し、「それぞれの事情に合わせて、スキルアップと働きやすさの両立を目指す職場です」と力を込めた。

東京で約10年間システム開発の仕事に携わり、Uターンして入社した上田百合子さんは、「エンジニアは寡黙なイメージがあると思うが、みんなで協力して助け合いながら働いています」と社内の雰囲気を紹介した。

また、この日は奄美と会場をつなぎ、オンラインで会話する場面も。担当者は、「経験者はもちろんですが、未経験でも教育プログラムを充実させています。チャレンジしたい人に、ぜひ来ていただきたい」とPRした。

プレゼンするアイ.タイムズの米澤社長。その奥が社員の上田さん

「新しいチャレンジにワクワクする人と、ぜひご一緒できればうれしいですね」。そう話すのは、サムライト株式会社の加藤真守さんだ。

本社は東京・青山。オウンドメディアやSNS活用支援などのコンテンツマーケティングを軸に、WEB関連サービスを展開している。社員65人、平均年齢は30歳だ。

奄美大島とのつながりは、ある社員が「南の島に移住したいので会社を辞めたい」と言い出したことから始まった。社員とは、加藤さんのことだ。ただ、社長の説得もあり退職はせず、2018年4月に移住して現在はフルリモートで働いている。

それを機に、同社は「奄美大島リゾートワーカー」という人事制度を導入。「奄美大島で活動する人の採用活動を始めました。これまでは私1人で活動してましたが、10月からもう1人スタッフが加わりました。現在オフィスも探している最中で、年内の開設を目指しています」(加藤さん)と、これから体制を強化していく計画だ。

サムライトの加藤さん。「南の島に移住したい」の一言からすべては始まった

システム開発を手がける株式会社ファインゲートも東京に本社を置くが、現在は奄美大島に社員が1人常駐している。社長の上野健吾さんは、奄美大島の南に位置する徳之島(鹿児島県)の出身。今は東京を拠点に、月1回ペースで奄美を訪問している。島内でのIT産業を盛り上げようと、社員を募集中だ。上野社長は、「首都圏をはじめ島外から一緒に仕事をとってきて、奄美で開発するようなスタイルで働ける人を探しています」と呼びかけた。

このほか、ホテルやスポーツクラブ、醸造所、新聞社など総勢10社のプレゼンが行われ、それぞれ担当者が熱い思いを口々に発した。

島暮らしの理想とギャップは。移住者の“本音”トーク

移住するにあたっては、仕事だけでなく、現地での生活に馴染めるかどうかも大事な要素だ。奄美大島は温暖で、海がきれいな南国のイメージが強いが、実際どうなのか。イベントでは、そんな暮らしのリアルな実情を知ってもらおうと、移住者3人による本音トークが繰り広げられた。

メンバーは、しーまの豊山琴音さん、奄美市職員の三浦有子さん、サムライトの加藤さん。島暮らしのの理想とギャップ、人間関係の築き方などをテーマに本音をぶつけ合った。

豊山さんは福岡県出身。大阪などでカメラマンをしていたが、「めちゃくちゃ忙しくて、いったん休もう」と両親の出身地である奄美大島へ。遊びに来たつもりが、そのまま住み着くことになったという。今はしーまで雑誌・WEBの編集や撮影などに忙しい毎日だ。

そんな豊山さんが島に来て驚いたことの1つが、「人と人との距離が近いこと」だった。最初はとまどい、息苦しく感じることもあったという。ただ、それに神経を使うよりも、「仲良くなろう」と開き直ることにした。今ではすっかり近しい対人関係に慣れ、「慣れたら逆に家族のように親しくなれる。私はそんなところが好きです」と笑って話す。

しーまの豊山さん。休暇で奄美に降り立ったつもりが、住み着くことに

三浦さんも、そんな濃い人間関係を日常的に味わっている。神奈川県出身の三浦さんは、奄美生まれの男性と結婚。嫁ターンで島にやってきた。役所勤めも影響してか、人間関係は非常に広く、その分「冠婚葬祭がとても多い」と出費がかさむのには驚いたそうだ。

加藤さんは、島暮らしの理想とのギャップについて言及。「『海沿いの家でのんびり過ごしたい』といったイメージをもつ人が多いが、不便なこともあります」とし、例として台風を挙げた。特に海沿いの町は荒れやすく、停電も珍しくないという。「保存食を多めに買ったり、水をストックしている」と明かすと、三浦さんが「(数日分の食料を冷やすための)クーラーボックスとランタンは必須」とアドバイスする場面もあった。

一方で、加藤さん自身は「東京ではよく飲み歩いていたけど、今は朝から海を眺めて仕事して、と健康的な生活を送っている」と島暮らしを堪能している。仕事で行き詰まったときは、「海辺や港で海や夕日をぼーっと眺めたりしてスイッチを切り替えている」という。

豊山さんも仕事は忙しいが、充実感もある。「都会ではカメラマンはカメラマン、などと仕事がカテゴライズされているけど、こっちではマルチタスクが必要とされ、その分スキルアップができている」からだ。

市で移住・定住施策を担当する三浦さんは、「そういう違いやギャップをおもしろがって受け入れられるか、そうでないかで随分変わってくるんじゃないか」と話す。

「スキルを活かせる仕事がありそう」

個別ブースで相談に応じる奄美市の三浦さん(右)

イベントではこのほか、参加企業毎にブースが設置され参加者との個別相談が行われたほか、「島ジョブ酒場」と称して鶏飯(けいはん)をはじめとする郷土料理や地酒も振る舞われ、参加者は互いに交流を楽しんだ。

都内の外食企業に勤める30代の男性は、「前からいつか島に帰りたいと思っていて、今回初めて参加した」という。奄美大島出身で、高校卒業とともに上京。「島には『仕事がない』とよく言われるが、今日来ていろんな求人があることがわかった」と満足した様子。今は販促物の作成などに携わっているが、「スキルを活かせる仕事がありそう」とどうやら意中の転職先を見つけたようだ。

この日のイベントをきっかけに、また新たなUIターン者が奄美大島の地に足を踏み入れることになりそうだ。

【イベント情報】
あまみ島暮らしフェア2019

◆日時:11月14-15日(木-金)
◆場所:奄美市内各所
◆詳細:https://www.city.amami.lg.jp/pjsenryaku/ui-turn/event.html
◆旅費、宿泊費補助あり

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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