地図上に写真やコメントを投稿し、オリジナルマップを作成するアプリ「Diground(ディグランド)」を運用しているディグランド(本社=東京都中野区)が、「ハチ公の故郷」として知られる秋田県大館市のお試しサテライトオフィス事業を活用し、市内の秋田犬像をマッピングした「あきたいぬのおしり」マップを作成。地域資源を活かしたユニークな取り組みとして、にわかに注目を集めている。
地方の仕事には、強い信頼関係がある
「あきたいぬのおしり」マップは、大館市内に設置されている計14カ所の秋田犬像のスポットをマッピングしたもの。単に犬の顔を正面から撮影するのではなく、「おしり」を写した写真を集めて投稿している。それぞれおしりのフォルムや表情は異なり、個性豊かな14の像が並ぶ。このユニークな着眼点が、20〜30代女性を中心に人気のようだ。同時に、都内のIT企業が地方に”お試しオフィス”を構え、地域資源を活用してサービス開発に取り組む事業モデルも新鮮に映る。
「あきたいぬのおしり」マップを含む地図アプリ「ディグランド」は現在、100種以上が公開されている。「東京23区シュニッツェル」「三軒茶屋でよく行くご飯屋さん」「宇都宮やきいもマップ」など、ユーザーがそれぞれの趣味や好みに応じて、自由に作成・公開できるのが特徴だ。
今回、大館市でマップを作成したことについて、同社の阿部紘士社長は、「地域に根付いて仕事をしていくことに興味があったんです」と話す。
具体的には今年2月、高知県主催のビジネスプランコンテストに出場したのが「地域」に強い興味をもつきっかけになったという。県の関係者や地元のIT企業経営者らと知り合い、彼らが互いを信頼しながら仕事をしている様子が、光り輝いて見えた。「東京にいれば、私たちは何千・何万社のうちの1社にすぎないが、地域では強い信頼をベースにした仕事上の関係性がありました」(阿部社長)
その後、総務省による「お試しサテライトオフィス事業」の説明会に参加。複数の自治体がブースを構えていたが、大館市が掲げていた「星と緑と温泉の360°パノラマ」のキャッチコピーに引き寄せられた。話を聞いた担当者の対応も好印象で、すぐに応募を決めたという。
オフィスは自然公園内のコテージ、温泉は無料
大館市は大自然とともに、実は東京・渋谷駅にあるハチ公像の故郷としても有名な町だ。そこで、市担当者と「ハチ公像のマップアプリがあったらおもしろそう」と意気投合し、一気に企画が動き出した。
マップアプリの基本設計は既に完成しているため、サービス開始に必要なのは秋田犬像の場所を特定し、それをマップに反映させることだった。阿部社長は、社員と2人で現地を訪問。3泊4日の日程で、市内に設置されている計14カ所の像の場所を探索した。市担当者の親切な対応もあり、任務は概ね順調に進んだ。ただ、「中にはなかなか見つからなず、かなり時間がかかるケースもありました」と、阿部社長は苦笑いを浮かべる。「GoogleマップやWEB検索で発見できないような場所に、ひっそりと像が立っているんです。車で右往左往しながら、ようやく見つけられたこともありました」
一方、滞在中は自然公園内のコテージをオフィス兼宿泊場所として使用した。インターネット環境は完備されており、近くには温泉も。入浴料は、市負担のため無料だ。また、同じく都内から参加していた企業との情報交換も有意義だったという。「普段はお互い東京にいるのに、滅多に交流することはありません。非日常だからこそ、会話も弾みやすいのでしょう」(阿部社長)
さらに、地元の歓迎ぶりも印象的だったという。市担当者の”おもてなし”に加え、地元のデザイン会社が販促用のポストカードを率先して作成してくれたり、滞在中の模様が後日、地元テレビ局で放映されるなど、活動ぶりは地域に広がっていった。
短い滞在期間だったにも関わらず、阿部社長は充実感と手応えを感じているようだ。「市は企業誘致に力を入れており、地元企業も協力的で、行政と民間が一体となって地域を盛り上げようとしていました。地域には魅力的な人、会社がたくさんある。こういう人たちと仕事ができたら、非常にやりがいがあるはず。そう思いました」
地元住民に楽しんでもらい、観光客も呼び寄せたい
こうして、「あきたいぬのおしり」マップは今年6月に無事リリースされた。ニュースリリース配信サイト「PR TIMES」で配信すると、アクセス数は約3300PV(ページビュー)に達し、その日配信されたリリースの中で最も多かった。また、実際にマップを取得したユーザーも順調に増えているという。阿部社長は「このマップを使って『14カ所回ってみようかな』と地元の人に楽しんでもらったり、県外の観光客に興味をもってもらうきっかけになれば嬉しいです」と話す。
同社は今後も、大館市をはじめとする地方との関係性を広げていきたい考えだ。「大館市を筆頭にこれからも地域と少しずつコネクションを広げ、地元での採用も視野に入れながら、いろんな可能性を探っていこうと思っています」(阿部社長)
今、ITをはじめとする企業が地方に拠点を設けたり、自社のリソースを活用して地域課題の解決に取り組むケースが増えている。ただ、見ず知らずの土地で仕事をすることへの不安や、投資に見合う経済的効果が得られるかなど、未知数な部分も少なくない。特に、大手に比べて資金力で劣る中小企業は、二の足を踏みがちなのではないだろうか。そうした意味でも、ディグランドのように期間限定の”お試し”で地方に滞在し、サービス開発に取り組む事例は参考になりそうだ。