わずか4年前のこと。宮崎県日南市の中心部にある油津商店街は、いわゆるシャッター商店街の状態でした。ここで立ち上がったのが当時33歳で日南市長に初当選した崎田恭平市長。公約では「マーケティングができる人を民間から登用する」と掲げ、日南市が抱える人口減少などの課題解決に、民間のノウハウとスピード感を期待しました。
そこで白羽の矢が立ったのが、宮崎県出身で、ITベンチャーで活躍していた当時28歳の田鹿倫基さん。田鹿さんは日南市のマーケティング専門官に就任し、柔軟でアイデアフルな施策をさまざま実施します。それから4年経った現在、日南市は積極的なIT企業誘致などの実績から「先進自治体」として注目を集め、全国各地からの視察が絶えない都市となりました。
日南市はいま、2016年4月にITベンチャー:ポート株式会社が油津商店街にオフィスを構えたのを皮切りに、この1年間で10社が進出を果たしました。ここに幸せなUIターンが発生していることは言うまでもありません!
働きたい会社がたくさん増える。そこに自然と人が集まる。
今回は誘致企業第1号であるポート株式会社へおじゃまし、IT企業の地方進出について取材させていただきました!さらに、日南市の取り組みについて、日南市マーケティング専門官:田鹿倫基さんに、油津商店街を案内していただきながらお話を伺いました。
最先端と地元の、融合のかたち
「ナンダコレは!!!」
そう叫びたくなる気持ちをどうかわかってください。
オフィスは油津商店街のど真ん中。昭和の懐かしい雰囲気漂う商店街に突如現れたのは、さながら「南青山のカフェ」!!ガラス張りの洗練されたデザイナーズ空間は、訪れた編集部全員の度肝を見事に抜いてくれました。いや〜、しっかし、オシャレだな〜!聞くと、こちらのオフィスは2016年のグッドデザイン賞を受賞しているのだとか。どおりで!
そこに、とびきりの美女登場!宮崎県都城市出身の、松田幸奈さんです。
松田さんは県内Iターンで日南市へ。立ち上げ時に300名もの応募がある中、9名(現在は12名)のメンバーに見事選ばれた逸材です。
このオシャレオフィス+美女松田さん=どう見てもココ南青山っぽい!!
そんなことを考えながら周りを見回すと、他のメンバーのみなさんも、フリーアドレスデスクや「ナゾのブース」なんかで、オシャレ感満載でお仕事をしておられます。
そして見逃せないのが、壁にあしらわれた日南特産の世界的ブランド「飫肥杉(おびすぎ)」。”オフィスと壁”しかり、”オフィスと人”しかり、”ITと油津商店街”しかり、あらゆるところで「最先端と地元の融合」が見事でした。
自分の可能性が一気に広がる!
松田さんは自社メディアのライターとして、就活生向けの記事作成や編集作業をしています。以前からWEB関係の仕事に興味があり、WEBデザインの職業訓練学校に半年通ったこともあるそうですが、行きたいと思える企業になかなか出会えなかったのだそう。
そこに突然、日南市へポート社が進出というニュースが!
松田さん:
「新しいな!と思いました。何もない、交通の便も良くない、若者向けの施設もあまりない中で、東京の大きい企業、ベンチャー企業がうちに来ることに対して新しいな、と。それで、どんな会社なんだろう?と興味を持って調べたら、とってもアツい企業だなというのを感じて、すぐ応募してみようと思いました」
今回、書くという仕事はゼロからの挑戦。東京の本部のサポートを受けつつ、同期の立ち上げメンバーとともにスキルアップに励む日々です。ここにやりがいを覚える一方で、本社で経験できる開発やデザイン、マーケティングの勉強なども興味を抱いているのだとか。ITベンチャー企業の可能性、まるごと享受できちゃいますね!
ガラス張りでオープン!地元とツナガル!
しかしガラス張りって、オシャレなだけじゃなくって、外からじろじろ見られたりしませんか??
商店街の方から、どう思われているんですかっ??
松田さん:
「見えなかったら、何やってるんだろうと思われるので(笑)地元の方は、まだITって何やってるの?というところが大きいのかなと思います。パソコン向かって、しかも私たちすごくラフな服装で、金髪もいるし、本当に仕事してるの?みたいな。でもガラス張りだと外からちゃんと見えるので、何をしているかわかるっていうのは、とても大事ですね」
なるほど、聞けば確かに1年前までは、いわゆるシャッター街だったわけで。そこに突然「IT進出!しかもいきなり10社!」となった時、地元の方からすると、一体なんだろう、どんな人たちなんだろう、と思うのは当然のことですよね。
松田さん:
「みなさん、中をのぞいてくださって。あとは地域のお祭り、、みこしを担いだりとか、そのような場所で交流したり、小中学校の仕事場案内に参加したりすることで、どんなことをやってるのか知っていただくように努めています。今ではみなさん気軽に立ち寄ってくださって、オフィスの中が幼稚園のお散歩ルートにもなっています(笑)」
IT企業の地方進出は、地元の方とのコミュニケーションを深めることが重要!お互いによく理解することにより、新しい文化がどんどん育ち、そして根付いていくんですね。
いい企業と、いい自治体と、いい街と。
しかしこんなふうに、もしも自分の地元に、とつぜんキラキラした会社が進出してきたら、どう思うだろう!?
…そりゃ、嬉しいに決まってますよね。きっと日南市の若者たちが、一番この状況を喜んでいるのでは!?
松田さん:
「私の場合、もしポートが進出しなかったら、日南市にある事務職とか、コールセンターとか販売とか、そういう感じの仕事をしていたのかな、と思いますね。だからこういった選択肢ができたのは、とても大きいです」
日南市を選んで来てくれたポート社にも、進出をバックアップした日南市にも感謝ってかんじですね!!
松田さん:
「誘致企業の1社目ということもあり、市の方が手厚くサポートをしてくださって、実際にけっこう足を運んでくださったり、地域のイベントを紹介してくれたり、サポートはかなり多くて、心強いです。商店街の一角ということもあって、商店街の方達と交流ができるような場を設けてくれたり、会合に呼んでいただいたり」
自治体のサポートも受けながら、若い人たちが生き生きと活躍し、育ち、根づいていく。窓越しの油津商店街に目をやると、少し前までは見かけなかったという若い人や親子連れが多く行き交い、活気があふれていました。
日南市のマーケティング専門官と油津商店街歩いてみた!
このように、UIターンしやすい環境づくりが進められている日南市の油津商店街を、日南市マーケティング専門官の田鹿倫基さんにご案内していただきました!
▼純喫茶をリノベーション!世代を超えた交流の場に
まず最初に案内していただいたのが、旧店舗名の「麦藁帽子」というロゴをそのまま残す形でリノベーションした、街のシンボル的存在のカフェ「ABURATSU COFFEE」。日南市の再生は、2014年11月にこのお店がオープンしたことが起点になっているのだそう。「古き良き時代とこれからの未来とが融合した、新しい日南・油津のコミュニティを育むカフェ」として、市民のみなさんに愛されています。ものすごく雰囲気のいい、居心地良さそうなカフェでした!
▼日南に溶け込む、IT企業があちこちに。
次に訪れたのが、2016年8月にオープンしたIT関連企業、株式会社リトルクラウド(本社:東京都新宿区)の日南オフィス(通称:LITTLE BASE NCN)。床には日南特産の飫肥杉とコンクリートがあしらわれていて、洗練されながらもあたたかい雰囲気が漂います!そして黒板がわりにもなる壁は、日南市長や市民のみなさんと一緒に塗ったのだとか。
ここに、地元と企業のステキな二人三脚を垣間見ることができました!スタッフの皆さんは、地元採用の方や、Uターン組もいらっしゃるそうです。
▼「地方創生学生起業家」が運営するゲストハウス!
さらにユニークなバックグラウンドを持つ店舗をご紹介いただきました!ゲストハウス「fan! -ABURATSU- Sports Bar & HOSTEL」は、名古屋大学を休学中の奥田さんが代表を務めています。なんと奥田さんは「Eターン(起業に視野に入れた移住)」組。地域活性を目指すビジネスコンテストで、広島カープのキャンプ地でもある日南市の「宿泊施設が圧倒的に不足している現状」に注目。そこでゲストハウス設立の提案をしたところ1位を獲得し、実現化を果たしたのだとか。ここでも田鹿さんをはじめとする日南市の主導やバックアップが大きくあったことは、言うまでもありません。日南市民はもちろん、カープファンにとって、リアルにありがたい場所ですね!
▼商店街の真ん中にある、多世代交流の拠点スペース
商店街アーケードに面した「油津Yotten(あぶらつよってん)」には、無料のフリースペース、スクール、スタジオ、油津カープ館などがあり、世代を超えて集い楽しむことができる場となっています。また、同じ敷地内に並ぶ「あぶらつ食堂」は、30メートルの飫肥杉カウンターが自慢。地元出身の若手オーナーの飲食店が6店舗入居し、昼夜問わず賑わいを見せています。進出したIT企業同士の交流の場としても、大活躍です(=ここでITコンパしたら楽しそう)!
▼子育て支援も充実!
最後にご案内していただいたのが、日南市子育て支援センター「ことこと」。飫肥杉の木のぬくもりをたっぷりと感じることができる、子育て支援の場です。子供たちも、お母さんたちも、ゆったりした表情で過ごしていたのがとても印象的でした。家族でUIターンをしたとき、このようなサポート体制が充実していると安心ですね。
田鹿さんは、日南市の「人口ピラミッドの図」を、現状の「三角形」から、「ドラム缶状」にすることをミッションをして掲げているそうです。各世代の人口分布をドラム缶状のまんべんない形にすることで、地域は活性化し、持続可能性が高まると言います。そのためには、やはり子育て支援は欠かせないのだとか。子育て世代とその子供たちが安心して住むことができる日南市の街づくりは、今後も続いていきます。
さいごに
ポート日南オフィスには、日々全国の自治体から多くの方が視察にくるそうです。つまりはIT企業を誘致して、地元の雇用を拡大し、活気あるまちづくりを目指している自治体がまだまだたくさんあるということ!場所を問わずに、もしくは好きな場所で生活し仕事をしたいというエンジニアにとって、この動きはとてもうれしい流れです。
次の注目エリアはどこなのか!?ワクワクしながら動向を見守りつつ、機会があれば、美しい飫肥杉の木の香漂い、自治体と民間企業が一体となりみんなイキイキしている日南市へぜひ足を運んでみてください!どこに住んで、どう働き、どう生きるか?そのヒントがたくさん散りばめられている、とっても素敵な街なので。
▼取材協力:
ポート株式会社
宮崎県日南市サテライトオフィス
松田幸奈さん
東瑶子さん
日南市商工政策課
マーケティング専門官
田鹿倫基さん