クラウド型の人事評価制度サービスなどを展開するあしたのチーム(東京)が、徳島県三好市のサテライトオフィスを利用したワーケーションに乗り出した。10月21日には現地で記者会見を開催。髙橋恭介社長は、今回の取り組みが「ワーケーション促進の現実解になる」と意義を強調した。コロナ禍の中で注目を集めているワーケーション。あしたのチームの狙い、そして思い描くワーケーションの姿とはーー。
長期休暇とワーケーション、サテライトオフィスの「3つの掛け算」
「長期休暇とワーケーション、サテライトオフィスの3つの掛け算だ」。あしたのチームの髙橋社長は記者会見でこう述べ、ワーケーション推進の狙いを強調した。
同社が新たに導入したワーケーションの仕組みはこうだ。活用したのは、5年間の勤務ごとに5日間取得できる永年勤続休暇(リフレッシュ休暇)制度。従来は旅行補助として10万円を支給していたが、それを延べ2日以上のワーケーション勤務などを条件に20万円に引き上げた。
これを利用して、「例えば2週間ぶっ通しで現地に滞在してもらい、土日を絡めた10営業日のうち5日間は特別休暇で観光し、残りはサテライトオフィスでワーケーションする。有給は温存することもできるし、もちろんセットで利用してもいい」(髙橋社長)といった姿をイメージしているという。
休暇制度と掛け合わせたのには、長期休暇制度の形骸化があるという。どの会社にも制度はあっても、特に重要な仕事を任されている社員ほど業務に穴を開けられず、休暇を取得しづらい状況があるといわれる。そこで、長期休暇を利用したワーケーションにインセンティブを付ける制度を設計したのだ。
そして、もう1つのカギがサテライトオフィスだ。「旅先で仕事する」と言葉にするのは簡単だが、オンとオフの切り替えや快適な業務スペースの確保など課題は少なくない。また、経営・マネジメント側からすると業務の進捗管理などに不安が残るといった声も聞こえる。
ただ、サテライトオフィスのある場所なら就業環境を確保でき、経営陣も安心できるというのだ。髙橋社長は、「サテライトオフィスとセットにすることで、ワーケーションのハードルは一気に下がる。ワーケーション促進の現実的な解になるのではないか」と話す。
充実したネットワーク環境、行政支援も手厚く
今回、そのワーケーション先の舞台に選んだのが三好市だった。あしたのチームと三好市の関係は深い。同市は2012年頃からサテライトオフィスの誘致に力を入れ始め、その第1号企業として2013年に進出したのがあしたのチームだった。
同社はサテライトオフィスでこれまでに15人の地元スタッフを雇用し、営業事務や顧客の電話対応などを担ってきた。スキルを身につけ、その後東京や大阪などの支社に異動して活躍する社員もいるという。
ほかにも福井県鯖江市など計4つのサテライトオフィスを展開しているが、今回まず三好市を選んだのは、「日本有数のワーケーション地として選ばれる素養がある」(髙橋社長)からだ。
三好市は自然環境に恵まれた場所で、観光名所のほかゴルフ場などレジャー施設も多い。近年はウォータースポーツの町としても人気で、ラフティングやウェイクボードの世界大会が開かれている。そして何より、市内全域に充実したネットワーク環境が整備されている。
サテライトオフィスをはじめとする企業誘致や人材の受け入れにも熱心で、2018年にはUIターンや起業支援などを目的に、短期滞在用住居やコワーキングスペース、レストランなどが入る交流施設「MINDE(ミンデ)」がオープンした。
会見に同席した黒川征一市長は、新型コロナ感染拡大でワーケーションが注目されている中、「感染リスクの少ない地方でリモートワークを行うことは、社員のリフレッシュや生産性の向上につながるメリットがある」とし、あしたのチームとのワーケーション推進を「コロナ禍の閉塞感を解消し、観光地の活性化や地域経済の再生につながる」と歓迎した。
同時に、黒川市長は市の全面的な協力も約束した。市長によると、市内では廃校をリノベーションした研修・合宿拠点が2021年度から運用開始予定であるほか、お試し住宅の整備も進めており、「観光やアクティビティ情報の提供を含めた協力体制の構築とともに、都市部企業の地方への注目度の高まりを好機と捉え、ワーケーションの候補地としてPRしていきたい」と力を込めた。
三好に惚れ込む髙橋社長も市の協力姿勢に感謝を示したうえで、「三好を日本全国のワーケーションの発信地、モデルケースにしたい」と強調した。
名古屋支社の30代社員、妻子連れ充実のワーケーション
そんなあしたのチーム三好市でのワーケーションは、すでに数人の社員が体験した。その1人が、名古屋支社の責任者を務める30代の男性だ。
10月中旬から妻と2歳の子供を連れて5日間、三好市に滞在。「基本は休暇として家族とともに市内を観光しながら、その合間にサテライトオフィスやホテル、出先などでお客様とオンラインミーティングをしていた」という。
観光の合間にイレギュラーに入る仕事にもストレスは感じず、むしろ「電波環境がよく、自社のサテライトオフィス以外にもリモートワークできる施設も充実していた。働きやすい環境が整っている」と満足した様子だ。
三好市を訪れたのは初めてだったが、「頂上が絶景」という塩塚高原を筆頭に観光も満喫。早速行きつけのカフェも見つけた。また、UIターンした若者を中心に町を盛り上げようという活気があり、地元住民との交流も刺激になったという。
これから会社としてワーケーションを進めていくことについては、「私がそうだったように、役職が上がるほどまとまった休暇が取りづらい面がある。今後ワーケーションを広げるためには、私のような立場の社員が率先して利用していくことが大事になると思う」と社内の広がりに期待する。
首都圏のIT企業呼び込みへ。3000社超の取引先にも利用促す
髙橋社長は、「この1年で永年勤続表彰を受ける社員が20人ほどいる。対象となる社員には、基本的にはほぼ全員に三好市でワーケーションしてもらうことを目指している」と話す。同社の社員は約200人。まずは今後1年で、全社員の約1割がワーケーションを体験する姿を描く。
また髙橋社長は、将来的には三好市だけでなく、東京や大阪など計8つの支社間でも社員を相互に受け入れるなど、ワーケーションを絡めて多様な働き方を進めていく考えも明かした。
自社だけではない。3000社を超える取引先にもワーケーションを促し、その候補地として三好市をPRしていくつもりだ。髙橋社長は「東京や大阪のシステム開発などのIT企業が最も相性がよく、可能性が高いだろう」と、IT企業のワーケーション促進に期待感を示した。
さらにその先に見据えるのは、三好市へのサテライトオフィスの誘致だ。これもIT企業をはじめとする取引先を中心に、「ワーケーション×サテライトオフィスの文脈でプロモーションを強化し、最終的にはワーケーションからサテライトオフィスの進出例を増やしていきたい」と狙いを語る。
コロナ禍で一気に機運が高まっているワーケーション。ただ、導入したくてもノウハウや情報不足などで二の足を踏む企業も少なくないのではないだろうか。あしたのチームと三好市の取り組みがワーケーションの促進にどんなインパクトを残すか、要注目といえそうだ。