雄大な自然に囲まれる小淵沢。森の中にあるIT企業、株式会社エンウィット

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八ヶ岳と南アルプスに囲まれた、雄大な自然を満喫できる山梨県の小淵沢町。小淵沢といえば、清流が流れる美しい高原のリゾート地。夏は涼しい避暑地、冬はウィンタースポーツの地としても有名だ。森の中にあるオフィスで、「自然×創造」をテーマにIT(情報技術)の活用に取り組んでいる会社が、今回ご紹介する株式会社エンウィットだ。自然と開発、都市と田舎、技術と感性、ハードウェアとソフトウェアなど、両極のエネルギーを統合・調和していくことを大切にしているというこちらの会社では、様々なアプリをリリースしている。東京銀座にオフィスを持ちながらも、本社を小淵沢としている理由とは? 代表の佐藤氏にお話をうかがった。

 

埼玉から小淵沢へ。今年で創業22年目を迎える株式会社エンウィット

- 株式会社エンウィットさんは、小淵沢で創業されて今年で22年目ということですが、この小淵沢を選んだ理由はどういったことだったのでしょうか?

佐藤氏: ソフトハウスを退職して埼玉の自宅マンションの一室で起業したのが、1995年でした。仕事場はすぐに資料やパソコンで手狭になってしまったので、広い物件を探し始めました。その頃、有機野菜の生産者交流会やキャンプなどで八ヶ岳南麓を訪れる機会が何度かあって、雄大な景観とこの地の人たちの自由な暮らしぶりをたいへん気に入ってしまいました。家賃も安くて広い場所を確保出来て、東京へのアクセスも2時間程度、ちょうど、インターネットの常時接続回線の普及も始まって仕事もネットで出来そうな感触を持っていた頃だったので、思いきって北杜市須玉町に自宅兼事務所を移転しました。その後、北杜市小淵沢町にログハウスを建築して現在に至ります。

- 御社の事業やサービスについておうかがいできますでしょうか。

佐藤氏: 創業当時は、パッケージソフトのローカライズやマニュアル制作、マルチメディア百科事典のコンテンツ制作などの請負業務が中心でした。その後、Webアプリケーション・データベース開発、CADソフトのカスタマイズなどのシステム開発業務、計測機器・カメラ・センサー等を活用した業務システム・アプリ開発といったように、変化の激しいIT業界にあって業務内容や顧客も時代とともに変遷してきました。

2010年からは自社製品として、「野鳥の鳴き声図鑑」などのアプリを開発してApp Store / Google Play で販売しているほか、地元にある動物画専門美術館「薮内正幸美術館」と提携して動物画のiPhoneケースやクリアファイルなどの各種イラストグッズの制作・販売も始めました。薮内正幸氏(1940-2000)は動物画家として多くの優れた作品を残されていて、薮内正幸美術館のライセンスを受けて弊社で制作しているグッズも高い評価をいただいています。

ただ、自社企画のアプリやグッズ事業はいまのところ趣味みたいなもので、システムの受託開発が事業の中心です。顧客は東京や神奈川ですので毎週のように出張しています。

 

自然豊かな山梨の野生動物はスター揃い。地元ならではのものづくり

- 御社の大きな特徴として、野鳥や動物といった自然をテーマになさっていることが挙げられると思います。山梨といえば自然豊かな美しい地で有名です。山梨の魅力も御社の製品に影響を与えているのでしょうか。

佐藤氏: 自然が好きで八ヶ岳南麓に移住したわけですが、より深く自然に興味を持つきっかけを作ってくれたのが、「オオルリ」です。渓流沿いの斜面に苔などで巣を作ることで知られているオオルリが、なんと我が家の軒先で営巣したのです。毎日、懸命に餌を運ぶ子育てを2週間近く、美しい鳴き声とともに間近で見ることができました。この体験を経てから、野生動物をリスペクトする気持ちがいっそう深まりました。身近にある豊かな自然、野鳥やいきもののことをもっと知りたくなり、1ユーザーとして図鑑アプリを欲しくなったことがアプリ開発のきっかけとなりました。

雄大な山々に囲まれ自然豊かな山梨には、多くの野生動物、魅力的ないきものが生息しています。八ヶ岳南麓の清里にはやまねミュージアムがあり「ニホンヤマネ」の生息地として知られています。同じ森に住む清里の「フクロウ」も有名です。南アルプスの麓、早川町では「ヤマセミ」や「ムササビ」に出会えますし、「クマタカ」も悠々と南アルプスの大空を舞っています。

野生動物はスター揃いですし、クラフト作家の工房や自然カメラマンの方なども多く、山梨県産木材などの素材も充実しています。地域の活性化にもつながればという想いもあって、新規事業としてのアプリ開発やグッズ制作に力を入れています。

昨年は、山梨県産の鹿革にUVプリンタでイラストを加飾して墨田区の革職人に仕上げてもらう企画に取り組みました。ステンレス製品では、荒川区の町工場や中国から素材を仕入れて電解エッチングという手法で自社加工しています。素材と技術、ローカルとグローバル、デジタルとアナログ、両面をみながら、多様な素材や加工技術の調査、開発を進めています。技術を磨き、自社保有の加工機器も充実することで、より質の高いものづくりをしていきたいと考えています。

 

多様な人が集まる面白い地域に変化しつつある小淵沢

- 佐藤さんご自身も開発に携わるエンジニアでいらっしゃいますが、エンジニアとしての情報収集はどうなさっていますか? 東京から離れていることで不便を感じることはありますか?

佐藤氏: 情報収集はみなさん使われていると思いますが、Stack Overflowやオライリーの Safari Books Online 等を利用しています。具体的な情報はネットで調べられる時代になりましたから、地方にいることのデメリットは少なくなったと思います。一方で、ネットで解決できない課題につきあたったときや、技術動向を見極めるような感覚的な部分については、人のつながりや場の共有が重要なことは昔から変わりません。技術者の集まり、展示会、セミナーなどには積極的に参加するようにしています。

長年、Apple周辺の開発に関わってきたこともあって、古くからのMac開発者の多い団体(特定非営利活動法人MOSA)の会員になっているほか、最近はファブスペースに面白い人や情報が集まっているので、赤坂のTechShop Tokyoの会員にもなっています。

これからの技術者は、技術面だけでなく感性やビジネス感覚を磨いておくことも重要です。弊社があえて銀座にオフィスを借りているのも、一流の製品やサービスにふれる機会を重視しているからです。やはり、銀座はすごい場所で、スーパーブランドや地方のアンテナショップ、老舗商店から大小様々なメーカーの旗艦店までがあり、日本全国や海外からも多様な人が集まっています。感性とか社会全般のトレンドを日常的につかむことが出来る圧倒的な情報量があります。

- 小淵沢に本社を置いてよかったと思うことは?

佐藤氏: 何と言っても自然にふれる機会が多いことですね。心身の健康はもとより、多様なインスピレーションや想像力を自然が与えてくれます。

地元のお祭りに出店したときの様子

北杜市には美術館などもあり観光客も多く訪れるエリアで、移住者や週末別荘の人も多いので、個性的な人たちと出会えることも魅力の一つです。最近では農業を志して移住してくる若い人や、都会で修行して戻ってきた人が飲食店などを開くケースも増えていて、多様な人が集まる面白い地域になっていると思います。

物理的にも2時間で東京に出られますし、他の地域とのつながりを持っている人も多いですから、情報収集やネットワークを維持しやすい点も良かったと思います。

- これまでを振り返り、仕事のやりがいを感じるのはどういうときでしょうか。

佐藤氏: 月並みですが、「お客さんが喜んでくれること」ですかね。特にITにあまり縁のなかった現場やコンピュータが苦手というお客さんに、ITの利便性や効率性を提供出来たときがうれしいですね。

アニマルパスウェイを渡るニホンリス

建設業や製造業向けのシステム開発では、現場の人からは何となく「ITのチャラチャラしたやつが何しに来たんだ」というような感じで最初は抵抗を受けることも少なくないのですが、業務を徹底的に理解するよう努めているうちに協力してくれるようになってきます。実践的で使いやすいシステムを開発できて、現場の人たちが喜んでくれたときが最高です。

会社としても個人としても、樹上性動物のための歩道橋「アニマルパスウェイ」を作る活動に参加・協力しているのですが、「お客さん」であるヤマネやリスが実際に橋を使っていることを映像で確認出来たときもひときわうれしかったですね。

 

世界中の生きものに関わる人たちと交流し、海外にもビジネスを展開していきたい

- これから新しく取り組もうとなさっていることはありますか?

佐藤氏: 弊社で制作している動物画のイラストグッズの制作では、UVプリンタ、レーザー加工機、昇華転写プリンタ、電解マーキング装置などの機器を活用しています。また、IoTシステムの開発においても電子基板や治具・ケース類をCADで設計して、CNCで切削加工をすることもあります。

こうした製作作業は、東京のファブスペースまで機器を借りにいって作業することが多いので、今後は自社設備を充実していきたいと考えています。地域にファブスペースがあれば、地元ならではのコンテンツ、素材を使ったものづくりもしやすくなるので、将来的にはファブスペースとしての運営も検討しています。

― 森の中のファブスペース、素敵ですね。最後になりますが、御社の将来の夢をおうかがいします。

佐藤氏: 弊社の「野鳥の鳴き声図鑑」アプリは日英言語に対応していて、海外のユーザーに購入していただくこともあります。日本で鳥の国際学会が開催されたときには、ブースを出展して野鳥グッズも販売しました。海外のお客様にも「素晴らしい絵だね」と言っていただき、フクロウのTシャツやハヤブサのiPhoneケースを喜んで買っていかれました。野鳥や野生動物を愛する心は世界共通です。今後もアプリ・グッズ・システムを通じて世界中の生きものに関わる人たちと交流し、海外にもビジネスを展開していければ最高です。

株式会社エンウィット事業紹介

小淵沢町の隣、北杜市白州町にある動物画専門美術館「薮内正幸美術館」とエンウィットのコラボレーションにより企画・製作しているイラストグッズ

プロフィール

佐藤良晴(さとうよしはる)さん
株式会社エンウィット代表取締役。東京出張時のささやかな楽しみは大型書店や博物館で過ごす時間。最近のお気に入りは丸の内のインターメディアテク。夜は銀座へ繰り出し、ヨガスタジオで心身をリフレッシュ。好きなアプリは、ヒューマンアナトミーアトラス。今年の座右の書は、まどみちおの詩集。

About Author

インコを愛するフリーライター。趣味は格闘技。いつまで経っても強くなれない悔しさを、仕事へのエネルギーに変えています。

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