全国の自治体が一堂に会する国内最大級の移住マッチンングイベント「ふるさと回帰フェア」(主催:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター)が9月10日、東京国際フォーラムで開催され、約2万人の来場者が各自治体の魅力や移住促進策に熱い視線を注ぎ、会場は熱気に包まれた。
昨年から1600人増、大台の2万人に迫る
同フェアは、今年で13回目。若い世代を中心に移住への関心が高まる中、来場者、参加自治体とも年々増加傾向にある。今回は全国47都道府県の約350自治体・団体がブースを構え、参加者も昨年を1600人ほど上回る1万9791人(前夜祭含む)と大台の2万人に迫った。
開会セレモニーで挨拶した同センターの高橋公・理事長はまず、2002年のセンター設立から現在までの足跡を振り返り、「大きな国民運動として広がっている」と手応えを口にした。実際、同センターへの今年の移住相談件数は「1〜8月までずっと前年同月比を上回っている」といい、3万人に迫る勢いで増えているという。
今年のフェアでも「1人でも多い移住希望者と、受け入れたい自治体の出会いの場合が確保できれば」と力を込めた。また、会場スペースの事情から参加できなかった自治体も多くあったと指摘したうえで、「これからは1つの自治体ではなく、グループや地域単位で参加いただくなど工夫しながらやっていきたい」と述べ、来年以降の一層の盛り上がりに期待感を示した。
また、セレモニーには内閣府副大臣の松本文明氏も姿を見せた。松本氏は、「東京一極集中といわれるが、実は半分くらいの人は地方に移住したいと希望をもっているそうだ」と移住への意識向上に触れる一方、「一歩踏み込む勇気が持てないのは、働く場所がなかったり、生活のイメージが湧かないことが課題」との見解を示し、「若い人たちがそこに暮らしながら、子供を育て、夢をつないでいける地域をつくっていかないといけない」と強調した。
「地元には愛着もあるし、安心して仕事ができる」
こうして幕を開けたフェアの会場には、各自治体・団体がひしめき合うようにブースを構え、カラフルな幟(のぼり)や看板を掲げたり、担当者がお揃いの法被やユニフォームを着用するなどして来場者に声をかけていく。また、各地のご当地マスコットキャラクターも来場者を出迎え、家族連れが喜ぶシーンも見られるなど、さながら”お祭り”のような光景が広がった。一方、来場者も自治体担当者と顔を突き合わせ、真剣な表情で話に聞き入っている。両手に大量の資料を抱えながら、会場内を歩き回っていた。
長野県下諏訪町のブースの前も、多くの人で賑わっていた。同町は昨年、移住定住促進室を設置。同室長の清水活則さんは、「予想以上の人出」と驚いた様子。前日も都内で移住に関するイベントを開催するなど、同促進室を立ち上げてから移住に興味を示す人たちとのネットワークづくりに力を入れてきた。
今年1月には、移住交流拠点の改装作業を実際に体験してもらリノベーションツアーを実施。地域おこし協力隊として同町の移住促進事業に携わっている綿引遥可さんは、同ツアーを含めて「住民や、移住者の先輩たちと触れ合うことを大事にしている」と話す。見知らぬ地への移住には、「仕事や生活面での不安があるのは当然。現地の人たちとの接点をつくることで安心できる」という。今回のフェアもネットワークづくりの一環。今後も交流の機会を積極的に設けていく考えだ。
一方、会場に来ていた新潟県新発田市出身の30代の男性は、実際に自治体の担当者と接することで「リアルな情報や話が聞ける」と満足げな表情を浮かべる。県内の専門学校を卒業後に上京し、現在は川崎市(神奈川県)に住みながら、都内の映像関係の会社に勤めているという。ある日、「実家に帰ったときに活気のなくなってしまった商店街を見て、大丈夫か?」と思ったことがUターンに関心をもつきっかけになったという。同時に、東京での今の仕事は「どうしても数をこなす仕事になりがち」と感じており、「地元には愛着もあるし、安心して仕事ができる」と考えるようになった。映像関係の仕事なら、「例えば地元商店のPR動画をつくるなど、活性化に貢献できるのではないか」と可能性を感じているという。
一方で、ある参加者からは「1日しかなく、自治体も多いので回りきれない」といった声も聞かれた。参加者は事前に興味のある自治体を調べておくなど、短い時間で効率的に情報を収集する必要がありそうだ。移住への関心は今後も高まることが予想され、フェアの開催意義も増していくだろう。移住希望者、自治体双方にとってより魅力的なマッチングイベントにするために、今後も様々な創意工夫が求められる。
同センターの調査によると、2016年の移住相談件数は2万6000件を超え、前年から約2割増加。また、センターの利用者は20〜40代が7割近くに達するなど、近年は若者や現役世代による移住への意識が高まっている。