伊那から新しいビジネスを！「室内だけど芝生」のコワーキングスペースDEN

長野県伊那市。南アルプスと中央アルプスに囲まれ、澄み切った水と空気がおいしいこの場所に、コワーキングスペースDENがある。DENのオープンは2012年7月。長野県で２番目にできたコワーキングスペースだ。「室内だけど芝生」という広々とした空間に、モダンな家具が並ぶカフェのようなワークスペースは、DIYで作り上げたものだという。5年目を迎えた今、IT関係者だけでなくドローンや農業といった幅広い分野で働く地元の人たちが集うスペースとして、DENは県外からも注目されている。このDENを運営するデザインファーム、THE APP BASE株式会社代表取締役佐藤駿氏にお話をうかがった。

東日本震災をきっかけに、地元伊那でのUターン起業を決意

DENを運営するTHE APP BASE株式会社は、スマートフォンアプリのデザインやWEBサービスのUI、UXデザインのほかに、建築の意匠設計や地域デザインなども手掛けるデザインファームだ。このTHE APP BASE株式会社のオフィスと同じフロアに DENがある。床には人工芝の緑が敷かれ、ガレージを連想させる広々とした空間が広がっている。大きなテーブルにカラフルな椅子が並び、カフェのようにリラックスできるスペースだ。DENはそこに集う人たちだけでなく、THE APP BASE株式会社ともゆるやかにつながっている。

DENはTHE APP BASE株式会社の起業に合わせ、2012年4月に伊那にオープンした。佐藤氏が東京からのUターンで起業することを決意したきっかけは、2011年3月の震災だった。東京の設計事務所で建築関係の仕事をしていた佐藤氏は、怯える家族のために地元伊那へのUターンを決意した。小さい頃から起業に興味があった佐藤氏は、出身地である伊那に戻り、自身の会社を立ち上げることにした。家族を安心させると同時に、家族の近くで働く環境を手に入れたかったという。

東京から離れた伊那でも、個人が新しいビジネスを生み出す場を創りたい

人材の流動性がないことで衰退していく地域は日本中にみられるが、伊那も例外ではなかった。伊那の若者の就職は、地元の工場か東京の会社が一般的だ。佐藤氏のように起業しようと考える若者は、伊那には少ないという。伊那にUターンする前、佐藤氏は渋谷にあるワーキングコミュニティco-baのユーザーだった。株式会社ツクルバが運営するco-baは、若手起業家やクリエイター、スタートアップのチームが集い、新しいビジネスを生み出す場所だ。いろいろな人が集まり、情報交換することでビジネスを生み出すco-baを通じて、佐藤氏は大きな刺激を受けた。

伊那でも個人が新しいビジネスを生み出す場を作れないか、そう考えた佐藤氏はDENを立ち上げた。「就職先といえば地元の工場か東京という伊那ですが、個人の力で仕事の選択肢が増えるといいと考えています。いろいろな人が遊びにきてくれるDENのような場を通じて、若い人の起業が増えたらうれしいですね」。

ドローン事業や農業も。様々な人たちが集まることで、新しいチャンスが生まれている

DENの主な利用者は、やはり長野の人が多い。ITエンジニアやデザイナーにとどまらず、DENには農業に携わる人や美容師といった幅広い世界の人が集まる。ビジネスの刺激を求めてなのか、ここには学生も気軽に足を運ぶ。こちらに集う人たちの間では、一緒に仕事をしたり、新しいプロジェクトに挑戦したりする動きも生まれている。DENの利用者の中から、これまで２0人ほどが起業した。ドローンの活用を事業とする「DIG TRIP」もそのひとつだ。

豊かさの基準は、自分で決める

県内では初期にできたコワーキングスペースということもあり、DENは様々な方面から注目を集めている。最近では県内外からの視察も多いという。新しいビジネスが生まれる場として動き始めた、DENの今後についてうかがった。

「現代に生きる私たちにとって、豊かさの基準は人それぞれです。人や物が集中する東京が豊かだと思う人もいれば、人が少なく自然が豊富な地方のほうが豊かだと感じる人もいます。大切なのは、豊かさの基準を自分で決めること。まわりの情報に影響されることなく、自分にとっての豊かさを知ることは、働き方を選ぶことにもつながると思います。DENがきっかけとなって新しいビジネスが生まれているのは、とても喜ばしいことですが、まだまだできることはたくさんあると感じています。これからも伊那、そして長野発のビジネスがたくさん生まれることを願っています」と佐藤氏は締めくくった。

プロフィール

佐藤駿（さとうしゅん）