【高鍋町とIoT】町内全域カバーするプラットフォームを構築。エイムネクストの実証実験を現地取材<前編>

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宮崎県高鍋町に事業所を構え、IoTインフラ整備の実証実験を行っているエイムネクスト(本社=東京)が、町内のほぼ全域をカバーする「地域IoTプラットフォーム」を構築し、全国の中小自治体を対象に全国展開に乗り出した。6月4日にはその成果を発表するカンファレンスを町内で開催し、県内外からIT関連企業や自治体関係者ら140人超が参加。IoTで地域活性化を目指す試みに、高い関心が寄せられた。果たしてこのIoTプラットフォームは、地域を救う起爆剤になるのか。エイムネクストが手がけるIoTの実証実験の現場と、カンファレンスの模様を前・後編の2回にわたって紹介する。

“どこからでも”データ収集できる「地域IoTプラットフォーム」

農作業の合間を縫って、計測機器をチェックする農家

高鍋町内にあるミニトマトを栽培しているビニールハウスで、農家の男性が農作業をしながら小さな機器に目を凝らしている。「これでハウス内の温度や湿度、CO2濃度を測ってるんです」。額の汗を拭いながら、男性は笑顔で話した。

これは、エイムネクストが町内で実施しているIoTの実証実験の様子だ。ビニールハウス内の温度と湿度、CO2を測定するセンサーを設置し、そのデータをパソコンやスマホなどで閲覧できるというもの。農家の男性によると、温度や湿度などの変化や傾向をつかめれば、農作業の効率化や作物の品質向上につながる可能性があるという。

エイムネクストは昨年4月から、町内の畑や観光施設などでこうした実証実験を繰り返し行ってきた。そうした中、新たに町内のどこからでもセンサーのデータを取り込むことを可能にする「地域IoTプラットフォーム」を構築することに成功したのだ(詳しい仕組みは下記の図を参照)

高鍋町IoT実証実験のシステムイメージ(エイムネクストのプレスリリースより抜粋)

エイムネクストの清威人(たけと)社長は、今回のIoTプラットフォームの構築について「町内であればほぼ全域からデータをキャッチすることができるようになった。(農家などの)ユーザーにとっても、サーバーを置く必要のない仕組みにしたので手軽に使用できる」と意義を強調する。

それだけではない。同社はこの仕組みを全国の地方都市に広げようとしている。人口10万人以下の市町村(山間部を除く)を対象に、各地域に根ざした中小システム会社にプラットフォームやノウハウを貸与し、必要に応じて知識習得のためのトレーニングなども行うというのだ。地場の企業と組むことで、地域に密着したサービスにしたい狙いがある。

エイムネクストの清社長。高鍋町での事業に大きな期待を寄せている。

▼「地域IoTプラットフォーム」の詳細
http://www.aimnext.co.jp/files/PR_takanaba_IoTplatform.pdf

町長と意気投合。連携協定結び、事業所を開設

清社長率いるエイムネクストは、業務システムや組み込みソフトウェアなどのコンサルティングや設計・開発などに加え、人材育成や企業改革などに関するコンサルティングなども手がけるIT企業。高鍋町とは昨年4月にIT技術を活かしたまちづくりを進めるための包括連携協定を締結し、同年7月にはエイムネクストが町内に事業所を開設していた。

高鍋町にある事業所は、築130年の古民家を移築・改装した建物(右)と、北欧から輸入して建設したモダンなログハウス(左)の2棟からなる。

そもそも、なぜ高鍋町に進出することになったのか。それは、清社長のルーツが大きく影響している。高鍋町は清社長の父と祖父の出身地で、自身も幼少の頃から何度も訪問していた思い出の地だったのだ。

一方、高鍋町では2017年に現在の黒木敏之町長が当選して以降、企業誘致に力を入れるなど町の生き残りをかけて新たな施策を打ち出している。ちょうどその頃、清社長は黒木町長と顔を合わす機会があり、そこで意気投合して「一緒に何かやりましょう」とその後の協定締結につながった経緯がある。

現在、エイムネクストの事務所には3人の男性社員がエンジニアとして常駐している。事業所の開設後、宮崎市出身のUターン者などを、いずれも経験者として採用した。この3人を中心に、IoT技術を活用した実証実験のほかに、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術者を育成する研修事業にも乗り出している。

古民家ならではの落ち着いた雰囲気が漂うオフィス内。東京本社の社員が利用することもあり、新たな視点に気がつくには最適な環境といえそうだ。

事業所の目の前には、かつて築かれていた高鍋城の城堀がある。初夏にはハスの花が咲く癒しスポットだ。

▼過去の記事
【宮崎県”最小”の高鍋町とIoTのまちづくり。エイムネクストとの実証実験が本格化へ】
https://shiftlocal.jp/3467

来場者数、水位調査、セキュリティ、配達管理などに活用

さて、ここからは実際にエイムネクストが行っているIoTの実証実験の現場を、写真とともに1つずつ紹介していこう。現在、冒頭に挙げたビニールハウスのほかに、①観光施設の来場者数管理②露地畑での温度・湿度管理③製造条件のモニタリング(食品加工)④水位のモニタリング⑤オフィス・ホームセキュリティ⑥配達管理⑦高齢者の見守りの事例が進行している。

観光スポットの1つである高鍋湿原では、従来は来場者に手書きで名前を記入してもらい、来場者数を数えていた。現在は、写真奥に見える受付所にセンサーを設置し、来場者数を自動処理している。

ちなみにこの高鍋湿原には、希少なトンボが数多く生息している。自然環境について学ぶ地元小学校の課外授業にも使われているという。

こちらの露地畑でも、ビニールハウス同様に温度や湿度を計測し、そのデータを遠隔で閲覧できるシステムを構築した。

全国的にも有名な菓子店「日向利休庵」高鍋本店(左)では、冷蔵庫や冷凍庫にセンサーを設置し、温度を計測。モニターに一覧表示され(右)、異常があれば管理者に警告メールが届く仕組みを導入。

これは10cm刻みで水位を計測する水位計だ。台風や豪雨時の避難など、防災に役立つツールとして活用が期待される。

このほか、オフィス・ホームセキュリティはエイムネクストの事業所で運用中だ。センサーを設置するドアや窓が開いたりすると登録者に警告メールが発信されるシステムで、防犯対策に効果的という。また、配達管理については、GPSを使って弁当の配達車両の位置情報をモニタリングする仕組みを構築。特に急な配達依頼の多いランチ時などには、車の位置を即座に把握できるため最短コースで効率的に配達可能になる。高齢者の見守りはオフィス・ホームセキュリティと同じイメージで、ドアの開閉や人の動きを検知するシステムの実験をこれから本格化させる計画だ。

古くは米沢藩を改革した上杉鷹山や、日本で最初に孤児院を設立した石井十次などを輩出した”歴史と文教の町”として知られる高鍋町。しかし、全国各地の自治体と同様に人口減少や少子高齢化の波にさらされている。そこに新たに吹き始めた“IoT”の風。どんな変化が起こるのか。地元の期待も膨らんでいる。

そして、今回エイムネクストが構築した地域IoTプラットフォームには、他の地域のシステム開発会社や自治体からも熱い視線が注がれている。6月4日に開催された「高鍋町IoTカンファレンス」には、県内外から140人を超える多くの参加者が詰め掛けた。後日公開する<後編>では、その模様を詳報する。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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