半生を沖縄で過ごすITマンが見つけた都会にはない「IT×観光」の可能性

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ホテル基幹システム(PMS=Property Management System)で業界トップクラスの導入実績をもつタップ(本社=東京都江東区)。沖縄県うるま市にある沖縄事業所で、品質管理業務のチームを束ねるのが本土から移住した内之宮清賢さんだ。沖縄といえば広大な海や独自の食文化、そこでの長閑な暮らしが瞬時に浮かぶが、内之宮さんは沖縄だからこそ関われる先端的な仕事内容にも魅力を感じている。「IT×観光」の未知なるビジネスチャンスが広がっているからだ。

観光客数は4年連続で過去最高に

見渡す限りの青い海、突き抜ける広い空、流れる静かな時間…。沖縄が日本最大のリゾート地と言われる所以だ。その沖縄では近年、観光客がさらに増加している。県観光促進課の発表資料によると、2016年度の観光客数は対前年度比10.5%増の876万9200人と4年連続で国内・海外客とも過去最高を記録。海外は沖縄発着航空便の拡充などにより、台湾や韓国など東アジア各国からの流入が一気に増えているという。2017年度上半期も、前年同期比9.3%増と勢いが止まらない。まだまだ沖縄の観光業は成長途上といえそうだ。

そんな沖縄の観光業を、ITで盛り上げようとしているのがタップだ。同社は、フロントシステムやPOS、WEB予約などの営業系システムから、資材・財務経理・マネージメント支援やBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどまで、ホテルの基幹システムを開発・提供している。ホテル・宿泊業に特化しているのが特徴で、導入ユーザー数は約800施設と業界トップクラスの規模を誇る。

同県うるま市に沖縄事業所が開設されたのは2005年秋。以来、24時間・365日のカスタマーサポート体制を敷き、ホテル・旅館などの問い合わせ対応を担っている。応対するのが自社のSE(システムエンジニア)のため、迅速かつ的確な対応が可能という。

2010年には「ホテル研究所」も開設し、研究・開発体制を強化(2017年に琉球大学構内に移転)。さらに2016年秋にも、これまで東京本社が担っていた品質検証業務の2020年度の移管を目指し、沖縄事業所内に品質管理のチームを発足させるなど、沖縄におけるビジネスの役割が増している。

沖縄事業所ではカスタマーサポートをメイン業務に展開。新たに品質管理部門の移管を予定している。

琉球大学→東京本社→沖縄事業所の”Uターン”

そんな沖縄事業所で、品質管理業務のチームリーダーを任されているのが内之宮さんだ。2008年に東京本社から異動、今春で10年の節目を迎える。そんな内之宮さんは、2006年の入社当初から沖縄赴任を希望していた。それは、そもそも学生時代を沖縄で過ごすなど思い入れの深い場所だったからだ。

「私は宮崎県出身ですが、父親の仕事の関係で小学生の頃に2年ほど那覇市と宮古島に在住していました。さらに、地元の高校卒業後は琉球大学工学部電気電子工学科に進学し、4年間現地で暮らしていたんです。そのまま沖縄でSEとして働きたい。そう思って就職活動をしていたときに、タップに出会いました。理由は正直なところ、初任給が高かったからです。それと、いずれ沖縄に戻りたいと思っていたので、東京本社と沖縄事業所の2つの拠点を設けているのも志望理由の1つでした」

ただ、入社後は「若いうちは東京に行ったほうがいい」との社内のアドバイスを受け入れ約2年間、SEとして東京本社でホテルのフロントシステム開発(JAVA)をメインに担当し、技術を磨いた。仕事に集中できる充実した時間だったという。

そして、いよいよ沖縄赴任が実現する。沖縄事業所での仕事は、ホテル・旅館のカスタマーサポートだった。システムのトラブル・不具合の緊急対応を中心に、場合によっては新しい活用方法を提案することも。24時間・365日のサポート体制のため、深夜出勤を含むシフト勤務を約8年間続けた。現在は品質管理業務のチームリーダーとして、スタッフを束ねる重要なポジションを任せられている。

「沖縄事業所の社員数は70名を超えますが、社員同士の距離が近く、疑問に思ったことやわからないことはすぐに質問できる雰囲気です。自分の意見も言いやすく、とても仕事しやすいですね。また、検証業務を行うにあたっては、ホテルの業務についても詳しくならなければなりません。ただ、そこはカスタマーサポートの経験が役立っています。リーダーとして、検証業務の完全移管と効率的な運用に邁進していきたいです」

沖縄へ異動後、約8年間カスタマーサポートを経験。現在は品質管理業務のチームリーダーを務める。

子育てサポート手厚く、親戚のイベントで踊りも

沖縄へ異動して10年近く。幅広い業務を経験し、重要なポジションを担うまでになった内之宮さん。ここからは、家族や日々の生活を覗いてみよう。

幼少期や学生時代に過ごした期間も含めると、すでに人生の半分以上は沖縄暮らしだ。もうすっかり”沖縄人”だろう。実は、奥様も学生時代に付き合っていた沖縄出身の人で、現在は2歳と0歳の息子さんと4人、うるま市で生活している。

「生活面で不便に感じることは、特にありません。自宅は海が近く、コンビニやスーパーも歩いて5分圏内にあります。今はすっかり子育てに忙しい毎日ですが、以前は妻と2人でカメラ片手に沖縄そばやカフェ巡りを楽しんでました。沖縄好物はタコライスです。近所のキングタコスで、よくテイクアウトしていますよ。ここで生活するうえでは、車は必須ですね。沖縄は坂が多く、蒸し暑くて急に雨が降り出すこともあるので」

奥様が沖縄出身だからこそ、得られるメリットもあるそうだ。その1つが、子育てだ。そして、家族を大切にする沖縄独特の風習も楽しんでいるという。

「妻の実家が沖縄にあるので、子育てに関して多くのサポートがある点はとてもよかったと感じています。それと、親戚関連のイベントが多いのも沖縄ならではの風習でしょう。義理の妹の結婚式では、お祝いの席の幕開けの踊り『かぎやで風』を踊りました。練習は大変でしたが、楽しく、いい経験ができました」

自宅と職場のあるうるま市は、海が近く買い物も便利で、何不自由ないという。

AI、ビッグデータ…実験施設としてのホテル開業で最先端の研究を

内之宮さんの沖縄での人生には、まだまだ無限の可能性が広がっている。仕事もその1つだ。タップは国内外のIT関連企業が集積する「沖縄IT津梁パーク」(うるま市)で、数年後を目標に実験施設としてのホテル開業を計画している。AIやビッグデータ、IoT、ロボットなど最先端のテクノロジーを駆使したシステム開発に力を入れていく考えだ。近い将来、スマートフォンのQRコードや顔認証を使った自動チェックイン・アウトや、ロボットによるルームサービスなどがタップ発の新システムとして脚光を浴びることになるかもしれない。

「タップは営業・設計・開発・保守まで一貫して手がけており、すべて自社開発です。ホテルに関する様々なシステム、業務、研究に携われるチャンスがあることは非常に魅力的です。それに、沖縄県は観光とIT産業の振興に力を入れています。将来性のあるビジネスに関われる環境を生かして、いろんな仕事にチャレンジしていきたいですね」

東京から遠く離れた沖縄で、将来性溢れる「IT×観光」のビジネスに没頭するーー。最先端の仕事は、なにも都心に限定されているわけではない。その地域の特性とITを融合させることで、可能性はいくらでも広がる。内之宮さんのキャリアは、それを象徴する事例の1つといえそうだ。

すでに人生の半分以上を沖縄で過ごす内之宮さん。まだまだここで、キャリアアップを目指すつもりだ。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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