めがねのまちに、初のサテライトオフィス。人事評価クラウドのあしたのチーム、松江にも進出へ

Share

メガネフレームの国内シェアが95%を超え、「めがねのまち」として有名な福井県鯖江市。同市は近年、ITによる地域活性化や企業誘致でも話題を集めている。そうした中、総務省の「お試しサテライトオフィス」モデル事業を通じて今年10月、同市初のサテライトオフィスとして進出したのが人事コンサルティング会社のあしたのチーム(本社=東京都中央区)だ。同社にとってサテライトオフィスは3例目で、さらに今後は島根県松江市にも拠点を開設する計画だ。積極果敢な地方進出の狙い、それがもたらす効果とはーー。

営業拠点の後方支援に欠かせないサテライトオフィス

“冬本番”の足跡が迫る11月21日、鯖江市内の商店街の一角に、普段とは少し異なる賑やかな光景が広がっていた。前日に開所したばかりのあしたのチームのサテライトオフィス「鯖江ランド」のオープニングイベント・内覧会が開催されていたのだ。

同社は2008年設立のベンチャー企業で、AI(人工知能)を活用したクラウド型の人事評価制度サービスなどを提供。同サービスは中小企業を中心に約1000社に導入されている。設立以来、営業拠点は東京や大阪など全国26カ所へと増加しており、各拠点を後方からサポートするバックオフィス業務の体制も強化している。そこで重要な役割を果たしているのが、地方に展開するサテライトオフィスなのだ。

第1弾として2013年に徳島県三好市にサテライトオフィス「三好ランド」を設立すると、北海道夕張市、そして鯖江市と急ピッチに拠点を増やしてきた。スタッフは新卒を含む地元住民を積極的に採用。主に各種資料や見積書の作成、システム設定などの営業事務やユーザーからの電話対応などを担っている。

特に、開設から4年半ほど経過した三好ランドでは、行政や住民など地域との関係構築や採用活動などで順調な成果を上げており、ここでの成功体験が今回の鯖江ランドの開設につながっている。

初のサテライトオフィスとして2013年に開設した「三好ランド」。すでに稼働から4年半ほどが経つ。

三好ランドで働くメンバーたち。地元高校の卒業生など、若い女性が目立つのも特徴だ。

三好オフィスでは孫ターンや地元高卒を採用

今年10月、人口減少や高齢化が進む過疎の町に、世界各国のトップアスリートが続々と姿を現した。激流を勢いよく下るラフティングの世界選手権が行われたのだ。その舞台が、徳島県三好市だ。ここには、世界有数のラフティングスポットとして知られる吉野川が流れ、古き良き日本ならではの自然風景が広がる。

あしたのチームがサテライトオフィスを開設したのは、2013年だった。バックオフィス業務の充実化と、雇用創出をはじめとする地域の活性化。これらを目的に進出したわけだが、徳島県や三好市は当時から高速ブロードバンド網が広範囲に整備されるなど通信環境が充実しており、また企業立地に関する補助金制度も手厚いなど好条件が揃っていたという。

マーケティング部のPR担当部長である石川友夫さんは、進出当初の動きをこう振り返る。「地域から見ると、いきなり見ず知らずの会社がやってくるわけです。オフィスを開設したばかりのときは、住民などにも多少の抵抗感があったと思いますが、行政職員をはじめ協力的な方々が非常に多く、社員の採用も少しずつ軌道に乗っていきました」

三好ランドには現在、責任者であるマネージャーを含めて7人が在籍する。大阪府吹田市出身の西村耕世マネージャー(37歳)は当時、大阪の広告出版会社に勤めていたが、祖母が住んでいた三好市に妻と子供を引き連れて移住し、あしたのチームに入社した。いわゆる”孫ターン”だ。他の6人も全員が地元採用で、毎年地元の県立高校を卒業した新卒社員を迎え入れるなどしている。このうち、ある社員は入社後どんどん力をつけ、今年から高松支社(香川県高松市)に異動して働くようになった。それ以前にも、三好から沖縄と名古屋へ異動した社員がいるという。貴重な戦力として認められ、キャリアアップを果たしたのだ。

三好ランドの責任者である西村マネージャー。大阪から家族とともに”孫ターン”した。

「私たちは現地雇用を基本とする『地元密着』の考え方を大切にしています。三好市の場合、人気の高い事務職系の求人が圧倒的に少ないのが実情です。高卒後に東京や大阪など県外に進学・就職する人は少なくありません。一方で、親をはじめ家族の近くで生活したい人や、経済的な事情で進学をあきらめざるを得ないような人もいるでしょう。私たちは、そういう人たちの受け皿になりたいと思ってます。給与水準は地元平均よりも高い。地方にいながら、東京と同じような仕事と給与を得られるわけです」(石川さん)

事務職系の仕事は三好市では貴重で、給与水準も地元平均より高いという。

鯖江は早期に10人体制、松江では技術者を採用へ

そんな三好オフィスの成功体験を引っさげて上陸した鯖江市。「めがねのまち」として有名だが、近年は独自のまちづくりで全国の自治体や地方進出を模索する企業関係者などから注目を集めている。女子高生の視点を行政サービスに活かそうと市役所内に設置した「JK課」、そして行政情報の「オープンデータ化」によるITの活用などがある。IT関連では、小・中学生のプログラミング学習を充実させたり、首都圏のIT企業の誘致も積極的に進めている。

鯖江のサテライトオフィスでは、早い段階で社員10人ほどの体制を整えたい考えだ。現時点では、東京でキャリアを積みUターンした女性を含む4人の採用を決定。内覧会の日には、住民向けの採用説明会も行った。石川さんは、「三好と比べても人口は多いですし(三好市:約2.6万人、鯖江市:約6.9万人)、どんどん優秀な人材を採用していきたい」と期待を込める。

「鯖江ランド」ではまず3人を採用。来年2月にもう1人加わる予定だ。その後も増員する計画という。

オープンに先立って記者発表も実施。鯖江市初のサテライトオフィスとして、地域の期待も高まる。

さらに、次の一手もある。ITによるまちづくりで有名な島根県松江市にも、4番目のサテライトオフィスを開設しようというのだ。来年2月に開所式を行う予定で、行政などと連携しながら採用活動を行っていく計画だ。また、三好や鯖江は事務作業のサポートが主眼だったが、松江ではエンジニアなど技術者の採用を想定している。現在、技術開発の部隊を置いているのは東京支社のみだが、開発面でも東京をバックアップする体制を強化しようという狙いだ。

石川さんは、昨今広がる働き方の多様化を踏まえ、地方における人材発掘の効果に期待を寄せる。「今、地方志向のニーズは広がってますし、副業やフリーランスも増え、ワークスタイルはどんどん多様化しています。クラウドワークも広がり、地方と東京の情報格差はほんどないでしょう。一方で、首都圏ではIT技術者や事務職の人材獲得競争が激化し、採用コストも高まる一方です。地方各地に拠点を設けることで、優秀な人材を獲得できる確率が高まるのではないでしょうか」

衰退著しい地域への雇用創出を核にした貢献、そして人材採用や業務支援をはじめとする自社へのメリット。これらを両立する1つの新しい経営スタイルを、あしたのチームは着々と築き上げている。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

Leave A Reply