「女性目線」の地方における働き方改革。主婦や高齢者を雇用し、島の活性化とシニア市場の開拓を

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大手メーカーを中心にネット通販やWEBサイトのコンサルティングを手がけるペンシル(本社=福岡市)が、離島など地方にサテライトオフィスを開設し、主婦やシニア世代の採用を積極的に進めている。ITを通じた雇用創出や地域の活性化に加え、業務の効率化や拡大するシニア市場のマーケティング強化にもつなげたい考えだ。直近では10月はじめに、長崎県の離島・壱岐島に2つ目のサテライトオフィスを立ち上げた。一連の狙い、そして将来描くビジョンはーー。倉橋美佳社長に聞いた。

ペンシルの倉橋社長。サテライトオフィス開設の狙いや構想を語ってくれた。

過疎の町で地元の主婦を雇用。本社のサポート業務を

福岡の博多港から高速船に乗って約1時間。日本海の玄界灘にぽっかりと浮かぶ島が、壱岐島(壱岐市)だ。周辺の島々を含めた市の人口は約2万7000人。65歳以上の高齢者が35%以上を占める。文字通りの過疎の町だ。一方で、イカやウニなどの魚介類を中心に特産品も少なくなく、麦焼酎発祥の地とされていることでも知られる。

この島に10月はじめ、福岡・博多に本社を置くWEBコンサルティング会社のペンシルがサテライトオフィス「PIC壱岐」(PIC=Pencil Innovetion Central)を開設した。市内に住む3人の主婦を雇用し、WEBサイトの調査分析やレポート作成など本社や東京オフィスのサポート業務を担っている。

PIC壱岐では地元の主婦を雇用し、WEBサイトの調査分析やレポート作成などを行っている。

ペンシルは1995年に設立。健康食品や日用品、化粧品など大手メーカーのWEBサイトを分析し、売上アップなどにつなげるコンサルティングに定評がある。年間売上高は約24億円。過去5年の平均増収率は15%を超え、12期連続で黒字を達成中だ。サテライトオフィスを構えるのは、昨年4月にオープンした「PIC愛宕」(福岡市)に続いて2例目となる。相次ぐ地方進出は、どういった経緯で生まれたのだろうか。

高齢者の意見取り入れ、シニア市場のマーケティングを強化

倉橋社長は、地方に住む主婦やシニア世代の雇用創出、さらには自社のマーケティング力強化などをサテライトオフィス開設の大きな理由に挙げる。

「こうしたケースでよく耳にするいわゆる『若者の雇用支援』。私たちはそれ以上に、育児や介護などで就業時間や場所が限られがちな主婦や、定年後もやりがいのある仕事をしたいと考えているようなアクティブシニアの人材を活用したいと考えています」

これは、女性社長ならではの発想と言えるかもしれない。「私自身が親の介護などをしながら働くことを想像したとき、これまでの経験を活かせる仕事があるだろうかと不安に思いました。また、社員の約半数は女性です。彼女たちの将来も含め、せっかく培ったスキルを地方に住んでいるからという理由で活かせないのはもったいないですよね。時短など多様な勤務体系で、しかもITを使ったやりがいのある仕事ができる。そういう環境をつくりたかったんです」

倉橋社長は、高齢者の雇用に対しても強い思い入れを口にする。「これからますます高齢化が加速していく中で、定年後をどう生きるかは重要なテーマです。シニアの人たちが、働くことで生きがいや社会への貢献を感じられるような場所をつくりたい。それに、インターネットをうまく使いこなせるようになれば、移動せずに通販で買い物ができたり、遠くで暮らす子どもや孫とコミュニケーションをとりやすくなるはずです。インターネットは高齢者の生活を豊かにする可能性が大きいと思っています」

壱岐テレワークセンター内にあるPIC壱岐の仮事務所。今年度中に古民家を改修し、新しいオフィスに移転する予定だ。

さらにもう1つ、大事な狙いがあるという。それは主婦やシニア世代の採用が自社のマーケティング力強化や業務の効率化にもつながるという考え方だ。

同社の取引先には、健康食品や日用品、化粧品など主婦やシニア層を主要顧客としているケースが多い。つまり、壱岐での採用や事業を通じて「消費者」でもあるスタッフたちから直接ニーズを吸い上げることで、それを顧客メーカーのマーケティングやブランディング戦略に反映させようというのだ。

「社員の平均年齢は30代ですし、特にシニアの皆さんの生活者としての視点や意見を取り入れることは、当社やクライアントの成長を考えた場合に大事な要素になります」

こうした自社への相乗効果という点では、業務の効率化も挙げられる。コンサルティングはWEBサイトの調査分析からレポート作成、さらには戦略設計などまで業務が多岐にわたる。このため、適材適所で社員が得意分野を活かせる体制構築は当初から課題だったという。IT業界の人材獲得競争が激しくなる中、主婦や高齢者を採用して分業化を進めることで、業務効率を高めたい狙いもあった。実際、福岡市郊外に開設したPIC愛宕では効果が出ており、「コンサルタントがクリエイティブな業務に費やせる時間が増えている」(倉橋社長)という。

観光スポットの1つ、辰の島。ここならエメラルドグリーンの海で、海水浴が楽しめる。

社員のテレワークや研修施設に

PIC壱岐は、今年度中に古民家を改修してつくる新しいオフィスに移転する予定で、スタッフも5人に増やす計画だ。新オフィスでは市民を対象にしたインターネットやSNSの講習会を開き、意欲的な人材を採用したいと考えている。

また、福岡や東京で働く社員のテレワークや研修に利用する構想もあるという。「特に開発や分析業務に携わる社員は、1日中室内でパソコンの画面に向き合うケースもあります。環境を変えてリフレッシュしてもらったり、子育てや介護などの事情に合わせて、柔軟に勤務地を選択できるような職場をつくりたいですね」(倉橋社長)

倉橋社長の夢はまだ膨らむ。「壱岐には、壱岐牛のほかイカやウニなどの海の幸、アスパラバスを中心に多くの特産品があります。将来的にはそうした名産品を扱うECサイトをつくって、全国や海外に販売できるようにしたいと思っています。温泉もありますし、それを通じて国内外から観光客が島を訪れる。そういうサイクルを生み出し、地域産業を盛り上げたいですね」

海の幸も豊富で、新鮮な海鮮料理を味わえるのも魅力。山盛りのウニ丼(左下)には驚かされる。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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