岐阜は移住の”穴場スポット”⁉︎アプリ開発企業の経営者らが、Iターン後の仕事や暮らしぶりを熱弁

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岐阜県に移住(Iターン)したWEB・アプリ開発企業の経営者らが現地での仕事や生活について語るトークイベントが10月8日、都内のNPO法人ふるさと回帰支援センター内で開かれ、地方移住に関心をもつ参加者が”先輩”たちと意見を交わし、交流を深めた。

「半年間の無収入」から仲間と起業、独立へ

テーマは、「あなたはどっち派?地方都市暮らしor里山暮らし」。比較的交通の利便性が高い岐阜市と、”限界集落”と呼ばれる里山で暮らす2人のIターン者をゲストに迎え、同じ県内でも様々な働き方・暮らしがあることを紹介。県のほか、本巣市などの職員も参加し、それぞれ町の魅力をPRした。一方、当日は都内などに在住する大学生を含む20〜50代の15人が参加し、岐阜への移住に理解を深めた。

当日は15人が来場。20〜50代の幅広い世代が集まった。

WEB・スマホアプリの企画・開発やプログラミングなどを手がけるGREYCELL(グレイセル)を設立した中原淳さんは、本巣市に拠点を構えている。岐阜との縁は、大垣市にある情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に通っていたことや、妻の出身地であることだ。

ただ、移住は当初から計画していたことではなかった。岡山県で育ち、京都大学の卒業後に降り立った東京では、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究員などとして働いていた。当時、所内の同僚から勧められIAMASに通い、修士号を取得した経緯がある。そして、在学時に知り合った妻とともに再び上京し、仕事に明け暮れる毎日を送る。

生活の歯車が狂い始めたのは、それからだった。産まれたばかりの子どもの育児は妻に任せ、自分は仕事漬けの生活。「当時はめちゃくちゃ稼いでいた。でも、『家族のために』と思って一生懸命働いても、家に帰ると毎日妻が怒っている。家の中の仕事は任せっきりだったから…。夫婦関係が破綻寸前になったとき、ゼロから考え直そうと思った」

そんな人生の岐路に立たされ、新たに向かった先は妻の実家がある岐阜県だった。降り立った場所は、「住みよさランキング」(東洋経済新報社)で上位にランクインする本巣市。ただ市内でも、中原さんの住む「根尾」という地域は”限界集落”と呼ばれる里山だった。移住前は「仕事はなさそうだし、大変そう」という印象もあったが、「とにかく東京での生活がひどくて、このままだと離婚して1人暮らしになる。移住後のことはほとんど何も考えなかった」という。実際、仕事は「半年くらいはほぼ無収入だった」というが、以前通っていたIAMASの仲間と起業。その後独立し、グレイセルを設立した。

「移住にして一番よかったことは?」と尋ねられると、「奥さんが笑うようになった」と即答し、参加者の笑いを誘う。「年収は1/5くらいに減ったが、その分生活コストも1/5くらいに下がっている。家の中の仕事に充てられる時間はかなり増えた」そうだ。

現在はアプリ開発などのほかにも、県外からクリエイターやデザイナーを招き、地域の子どもたちや住民らとものづくりのワークショップを開催したりと、地域と一体となった活動にも力を入れている。

妻の実家がある岐阜に移住し、起業した中原さん。移住して最もよかったことは、「奥さんの笑顔が戻ったこと」だという。

「東京の情報は、岐阜では最先端になる」

一方、岐阜市に自宅と事務所を置くのが、司法書士の青木文子さんだ。名古屋市出身の青木さんは16年前にIターンし、現在は夫と2人の子ども(1人は留学中)と市内で暮らしている。

そんな青木さんにとって、岐阜への移住は「全くの成り行きだった」という。東京の大学を卒業後に名古屋市の文房具メーカーに勤めていたが、結婚とともに再び上京。しかし、国家公務員だった夫が激務のあまり体調を崩し、転職した先が岐阜だったのだ。ただ、夫の体調が劇的に改善しなかったこともあり、「子どもを養えるだけの仕事を手につけよう」と司法書士の資格を取得した。このほかに、自由な対話を促す手法として注目されている「ワールドカフェ」のファシリテーターや、学習やビジネスで用いられるトレーニング方法として話題となっている「方眼ノート」のトレーナーとしても活躍している。

偶然降り立った岐阜で、司法書士などとして活躍する青木さん。「子育て環境もいい」と母親としてもメリットを感じている。

青木さんが岐阜での仕事を通じて得た教訓の1つが、「東京で得た情報は、岐阜では最先端になる」ということだ。例えば、方眼ノートトレーナーの資格は岐阜から東京に通いながら取得した。「東京に行って勉強したことを岐阜に持ってくると、岐阜では最先端の情報になる。岐阜でそれを求めてくれる人がいれば、仕事になる」という。事務所はJR岐阜駅近く、自宅から車で約15分の場所にある。今でも月に数回は仕事で東京に通うが、全く不便には感じていない。

一方、母親の立場からは「子育てに最適」とも話す。東京の友人からよく聞くのは、「産む前から保育園を探すなど『保活』に必死」といった話だが、岐阜は県全体で待機児童は10人程度しかいないといい、東京との歴然とした差に参加者の多くが目を丸くした。

名古屋、東京、大阪から「そう遠くない場所」

2人のトークが終わると、今度は参加者が直接質問を投げかけるなど双方が活発に意見を交わし合った。参加者からは、家賃をはじめとする生活費や子育て環境などを尋ねる声が上がり、2人はそれぞれの体験から「全然心配ない」「トライしやすい」などと背中を押した。約3時間に及ぶ白熱したイベントを終え、参加者は「仕事の作り方などイメージが湧いた」「現地の人から見た魅力を知ることができ、移住に関心が深まった」などと満足した様子を見せた。

岐阜県移住定住まちづくり室の渡辺克己さんによると、岐阜は森林率が全国2位(農林水産省調べ)であるなど自然豊かな地域の1つとして知られる。加えて、「(地理的に)日本列島の真ん中に近く、東京や大阪など大都市からそう遠くない場所にある。名古屋にも、岐阜駅から電車に乗れば約20分で着ける」と、都会との距離の近さも魅力と話す。近年はUIターンに力を入れており、県外から移住を希望する人に県営住宅を提供するなど関連施策も充実させている。

豊かな自然と、東京や大阪、名古屋など複数の主要都市から比較的近い距離感。移住の人気自治体として注目されることは決して多くはないが、もしかしたら岐阜は地方移住の”穴場スポット”かもしれない。

岐阜は豊かな自然に加え、東京や大阪、名古屋からそう遠くない距離感も魅力の1つだ。

About Author

フリーライター/1983年神奈川県生まれ。2008年〜化粧品専門誌の記者を経て、2016年フリーランスに。現在、東北復興新聞(発行:NPO法人HUG)のほか、企業のCSR・CSV、ソーシャル・ローカルビジネス、一次産業、地方創生・移住などをテーマに取材〜執筆活動している。

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